要素複合的結果産業としての「観光」

人口が減少していく日本、特に地方にあって、2007年より施行された観光立国推進基本法から続く、国の観光立国への流れには期待を寄せる関係者も多いと思います。

外国人観光客の入国者数は、2007年にはおおよそ835万人だったのが、昨年2015年には約2201万人と7年間で264%以上の伸びを見せています。

もちろん、人口が減少していく地方では、都市部からの人口流入(移住定住)はハードルが高いにしても、ぜひ来てお金を落として欲しいというのが、一つの期待としてあり、観光促進施策というのが、一つの重要なテーマとして挙がっていることと思います。

私が関わっている地域でも、やはり観光というのを切り口に地域振興を図っていきたいということで、行政や公益的な事業を行う民間団体が頑張っていらっしゃいます。

 

ただ、ここで思うのは、ただ闇雲に観光振興が必要だということで、面白可笑しいポスターや動画を撮って周知させる「プロモーション」や、名物となるキャラクターを生み出し発信するプロモーション施策としての「ゆるキャラ運動」、あるいは一瞬の打ち上げ花火として盛り上げを促す「打ち上げ型イベント」、そして旅行会社にお金を貢ぎ魅力が薄く、ターゲットや打ち出す価値も曖昧な旅行パッケージを造成してもらう「モニターツアー」や、それにメディアも入れた「ファムトリップ」などなど、どうしてもこうした外に「目立ち」、「なんとなく盛り上がったり形が見えたりする」事業に目移りしたり、偏重したりする向きもあるような気がします。

施策を立案し、執行する関係者は、ぜひ観光を進めることの「目的」を整理し、その上で受益者(ステークホルダー)を明確にし、短期の利益と長期の導きたい成果の双方を見据えながら、妥当な目標設定を行い、ソリューションとなる施策や事業を進めていただきたいと思います。

 

観光は、細かな地域性等を踏まえずに言えば、大まかには、先日の「農商工連携・六次産業化」と一緒で、「地域資源をベースにした産業化による振興と地域環境の保全による生活者の暮らしの向上」が一つの目的であり手段であると思います。

地域資源というのは、人というものや事業者というものもあるでしょうし、自然やそれに由来する生活文化、風習、歴史的な文脈、食文化、そしてインフラなどの社会資本も該当すると思います。

それをいかにして産業化させ、飲食店や旅館ホテル、地域食材を提供や販売する商店、土産物店、人を運ぶ旅客運輸、それを体験などに落とし込んで楽しんでもらうレジャー産業の人やガイドさん、あるいはその全体をコーディネートするランドオペレーターさん等など、多くの「担い手」が関わり、地域資源を商品に変え、地域内外の消費者に対し、伝え、「財やサービス」として価値を提供し、消費者が価値経験(文化的経験)を受益することによって「観光」という結果、あるいは「事象」が成立すると思うのです。

そして、一つの「担い手」だけでなく、多くの「担い手」が、一定の土地(フィールド)を背景に価値経験を提供することによって「地域観光」が成立し、その価値提供を継続し、良い印象を与えていくことで地域の「観光的ブランド価値」が形成されてきます。

 

その中で、例えば「プロモーション」は、その土地の認知を高め、印象としての「観光的ブランド価値」をより明確に力強く訴えていくために必要なツールとなります。

一方で非常に重要なのは、やはり地域の産業化を具現化させる地域の「担い手」としての産業主体であり、さらに言えばその産業主体の小さな(あるいは大きな)「ブレークスルー」の集積が、地域の観光的ポテンシャルを顕在化させ、「観光地域づくり」の実態を形成します。

また、その産業化を担う産業主体の背景を支える自然資源や人々の暮らし、文化や環境といったものは、地域を成立させる基盤となるものですが、「卵」(Performance)だけでなく、それら「鶏」本体(Performance Capability)にも還元させていく視点も重要になります。

また、市民交流や(帰省や友達付き合いなど)家族や友人間の交流による移動にも産業化している要素があれば、観光的波及効果がもたらされるという面で、重要なファクターとして位置付けられます。

 

これらの「総体」や個別のアクティビティを捉え、評価し、地域として高め、施策としてその総体的な量や質の人的、金銭的、あるいは情緒的側面の向上に対して、支えていく、ファシリテーションしていくということが政策を立案し、執行する側には求められます。

特に、現代は、大勢がバスに乗って押しかけ、どこか観光施設を見て、大規模なドライブインで食事をし、またどこかに行ってしまうというタイプの観光は常に衰退傾向にあります。

外国人観光客も、一時は中国からの観光客をはじめ「ゴールデンルート」を巡り、家電やさんで爆買いさせ、帰っていくというマスツーリズムが脚光を浴びていましたが、今や停滞気味であるばかりでなく、違法ガイドの問題や、サービスの利益率低下、ブランド価値の低下を招き、周辺地域への波及効果も薄いなど課題が挙がっているため、検証や修正が必要となるでしょう。

個別具体的な価値観や関心、需要を持つ「個人」が、それぞれの判断を元に経済行動の一つとしてある地域に出かけ、価値経験を得て、財やサービスを購入し対価を支払う行為について、該当地域は理解する必要があると思うのです。

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今年、ドイツ西部のルクセンブルクに近いTrierという街やBernkastel-Kuesという町に行ってきました。

ルクセンブルクは世界遺産にもなっている美しい街ですが、Trierも同じくローマ時代の遺跡がある美しい街です。

ルクセンブルクに主要目的をおきながらも、Trierの方が宿賃が安く、Trier大学の先生とご一緒するという目的もあり滞在しました。

街中は美味しい料理とワイン(近年大きく質も向上してきたモーゼルワイン)を楽しみながら、ドイツらしい町並みとDOM(大聖堂)をはじめとした中世から続く現役の遺跡も見たり、現地の人や旅人と話したり飲んだり、とても楽しい経験でした。

ある日は、Trier大学の先生の運転でワインツーリズムが盛んな近くの町Bernkastel-Kuesに行き、醸造家との話を聞きながらテイスティングを楽しんだり、美しいぶどう栽培地を見たりとこちらも掛け替えのない経験でした。

そして、TrierもBernkastel-Kuesも小規模な地方都市や農村であるにもかかわらず、これらの個人客に支えられて(Trierは遺跡があるためツアー客もいましたが)、随分と賑わっていました。

当然ながらワインを買う、レストランで食事をする、宿泊施設で宿泊するという行為が伴います。

またレストランで食事をする際には当然、地域の芋や豚肉などが出てきます。そして、それらの農産物が地域の土地や人々の暮らしや文化を守るベースにもなり、外部の消費がそれに役立っています。

若い醸造家の意欲的な取り組みに対する出会いもあります。

外部から見ると、その土地の地域資源や産業化し観光地域づくりを成立させている要件も見えてきますし、また核となる資源やアイデンティティも見えてきます。

そこにいる担い手は、最初の出発点は必ずしも観光ではないかもしれません。

農業、製造業、サービス産業、住民、それぞれの「担い手」や生活者が、それぞれの中で、主体が価値を高める取り組み、あるいは顧客に喜んでもらい自らの生活を向上させる取り組みを重ねることにより、総体として「観光的ブランド価値」の形成に寄与しているのです。

「観光地域づくり」には、観光的発信に囚われるのではなく、中小の「担い手」の小さな(あるいは大きな)「ブレークスルー」を促す小さな一歩と広いバックアップが望まれているのではないでしょうか?

あるいはそれこそが観光的波及効果の最大化に近づく重要な要素であり、それにより「観光を推進すること」が産業的、あるいは文化的、社会的意義を持つということにもつながるのだと思います。

 

ごく最近は、こう言った観光の側面を認識し、多様な要素を見ながら地域の社会的環境、ソフト面のインフラを整えていこうという動きも見られるようになってきました。

これらの認識の変化や取り組みの変化から、より良い地域社会が形成され、人々の暮らしの向上や生活文化の振興や保全につながり、より良い日本や世界の運営につながっていくことを願うばかりです。

もちろん、我々もそのための貢献余地があれば、献身を惜しみません。

〔文責:宮田久司〕

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