「地酒」と「原産地呼称管理制度」

昨日から長野県内に滞在し、様々な蔵元や郷土食を巡っています。

3月18日から名城大学ナゴヤドーム前キャンパスで隔月開催する予定のフォーラム『美食とお酒の広場』の第一回が、長野県の「原産地呼称管理制度」の話が主で、また第二部では信州の食とお酒の組み合わせを楽しむ会を開催する予定のため、事前の調査を兼ねた巡回です。

もちろん明日は休暇を兼ね、趣味のクロスカントリースキーをするのですが!!

ということで、今回は蔵元だけで東西南北、計8蔵を回りました。

有名どころだと、協会7号酵母の元である諏訪の宮坂醸造株式会社。「真澄」の銘柄で知られています。

一方で、完全に家族経営だけでやっている小規模な蔵元もあります。

それぞれが魅力的な蔵であるばかりでなく、豊かで美しい水源の存在が信州の魅力でもあります。

 

以下に添付してあるものが、長野県原産地呼称管理制度の審査基準です。

長野県原産地呼称管理制度 長野県原産地呼称管理制度2

【※長野県『原産地呼称管理制度』資料より転用】

 

欧州のAOC(Appellation d’Origine Contrôlée)を倣ったこの制度は、日本では先進的に平成14年よりスタートし、すでに10年以上が経過していますが、消費者としてみた場合、このような取り組みの存在は、少なからず商品選択の基準や安心感につながるのだと思います。

例えば・・・

● 自家醸造酒であり、液化仕込みではなく、精米から瓶詰めまで一貫して県内で行なわれているということから桶買いして転売せず、しっかりと清酒の製造工程を踏まえて造られている

● 採水地がわかる(水脈や性質などの特色をつかむことができる)

● 原料米の品種や精米歩合などが明記されていることの安心感がある

 

などがあると思いますが、業界や地域としても・・・

● 顧客にとっての安心感が購買につながる

● 産地を反映させた「地酒」(Terroir Sake)としての価値とその定義を広め、価格を保つことができる

● 県内の酒造好適米の生産保護とクオリティの向上につながると同時に県交配の酒造好適米の認知につながる

● 水源の明記が各所の名水のPRと理解の向上による(環境)保全等にもつながり得る

 

 

と言ったメリットがあり、熱心に「地酒」の醸造に取り組む蔵元にとって、また、長野のお酒を飲みたいと思う消費者(旅行者も含む)にとって、また「地酒」の文化や環境(制度環境や経済環境も含む)の保全という側面においても意義のある、「三方よし」の制度ではあると思うのです。

 

しかしながら・・・

● 全体の製品の中で適応されているものはごく一部であり

● 消費者にも十分に認知されているとは言い難く

● その制度的メリットを十分に生かしきれていない

 

という現状も一方であると思われますし、蔵元としてもそのメリットをより実感したいということもあるように感じました。

 

私が昨年1月にお邪魔したルクセンブルク政府のワイン=ワイナリー機関(IVV:Institut Viti-Vinicole)でもEUのワイン法や現代の消費者趣向を踏まえ、1935年から取り組まれてきた「Marque Nationale」から新たに「AOP – Luxembourgeois」が2014年よりスタートしていますが、市場に出回っているルクセンブルク産のワインには、必ずAOPのラベルが裏面に貼ってあります。

生産者への浸透度という面において、まさにde jure スタンダードとして定着しているということが伺えます。

もちろん、1935年から導入していた「Marque Nationale」の下地があり、かつシーリングされた「地ワイン(Terroir Wine)」でなければ生存できないという環境があるということもあると思います。

 

この「AOP – Luxembourgeois」ですが、導入の目的は「Marque Nationale」を継承し、

① 生産地と品質を担保し、本物としての消費者理解を促す

② 価値と価格を保ち、生産者が良い製品を生み出す意欲を高める

という二つの目的があるのですが、きっとこれは長野県の原産地呼称管理制度も共通しているものでしょう。

これから、消費者も徐々に「本物の」地酒を求める市場環境に変遷されると、個人的には予測している中で、その本物を生産者側、消費者側の両側面から担保する本施策のこれからの発展を願うばかりです。

 

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日本における米を原材料とした醸造酒は、少なくとも1900年以上前には存在したようですが、その土地の恵みである米をその土地の水と酵母で醸す、まさに大地の恵み(Terroir:テロワール)を代弁するものであり、その恩恵を神に感謝し分かち合う重要な触媒でもありました。

現代においても、この歴史的文脈もさることながら、その土地の水、米、酵母、そしてもちろん人により醸された自然の恵みとしての日本酒は、食との組み合わせなども含め、土地の固有性、固有の価値を生み、様々な固有の価値を楽しむことができる文化的多様性が存在することが、生活者・消費者としての「豊かさ」を構成する重要な要素になると思います。

だからこそ、AOC/AOPのような原産地の呼称だけでなく、原産地の資産を守り、消費環境や社会環境を整備するということが重要になります。

私たちは、欧州のみならず、国内の先進地である信州も見て、学ぶことが必要です。

歴史

 

最後に、課題を挙げておきます。

例えば、今回訪問した木曽の酒蔵「中善酒造店」や松本の「大信州酒造」などは、近隣地域で栽培する自家栽培米や、蔵の周りの水田で生産する契約栽培米を利用する、土地の固有度も高い「地酒」でしたが、例えば「真澄」など他の蔵は、あくまで長野県産「美山錦」や「ひとごここち」など、範囲としてもより広く取り扱っているということが窺えます。

AOP – Luxembourgeois では、地域の限定度合いやブドウのヘクタールあたりの栽培量により「LIEU-DIT」、「COTEAUX DE」、「CÔTES DE」という3パターンの表記がされていますが、やはりより限られた範囲で、顔が見える関係から原材料米を調達し、その土地の農村文化を保全していく(これは、自然保護や文化の継承といった観点も含めた農村経済への寄与による社会的共通資本の保全につながる)ことが、本来の地酒であると考えるとした場合、その「地酒度」を分類分けしても良いような気がします。

もちろん、日本酒の現在の生産環境から考えると難しいのかもしれませんが。。。

もう一つは、信州でも各蔵が努力し、生酛造りやもち米の四段仕込みを始め、様々な創意工夫や特色作りをされているのですが、「一麹、二酛、三造り」と言われるように、最も最初の重要な工程である麹(製麴)の工程の特色があまり見えないというのは消費者として非常に残念であると思います。

情報はオープンにし、選択は消費者に。

そして、判断の基準となる情報やモノサシをできるだけ消費者に提供できるようにし、プラスアルファの楽しみ方や経験を売り手、伝え手が提案・提供する。

「地酒」の環境を整備し、「守る」ために、飲み手も、伝え手も、作り手も、ともに高め合い持続可能な豊かさ、資産としての文化を手にする。

そんな理想を側面的に支える施策について、今回の訪問や、長野県との出会いから、より関心を抱かせていただくことになりました。

〔文責:宮田久司〕

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