伝統資産から学ぶ〜清酒業界の持つ持続可能性の側面

昨年10月9日に名城大学ナゴヤドーム前キャンパスにて開催された国際フォーラム「持続可能な開発と文化を目指して〜アジアからの学びとアジアへの教訓」において、日本酒産業に含まれる人々の豊かさにつながる経済や生態系の持続可能性に関する見解を発表しました。

このフォーラムは名城大学外国語学部の主催により行われたもので、私も発表をさせていただきましたが、先日プロシーデングスが発刊されましたので、以下に日本語訳文を掲載させていただきます。

ぜひご一読くださいませ。
また、以下のURLからはフォーラムすべての要約がご覧になれます。
http://www.meijo-u.ac.jp/academics/foreign/pdf/forum2017.pdf

 

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伝統資産から学ぶ〜清酒業界の持つ持続可能性の側面

 

コメ由来の醸造酒である日本酒は、日本において約20世紀の間継承され消費されてきた。それは農村経済と密接な関係があり、自然の摂理に基づく環境に優しい製造手段を採っており、人々の信仰や慣習の中で保たれてきた。
この伝統的な製品は、現代の市場においても地域や職人ごとに多様な種類のものが消費されている。
本文は、日本酒に内在する持続可能性の要件を持つ「価値経済」に対するヒントについて言及する。


日本酒の主要な原材料はコメと水である。それに加え、麹菌の糖化酵素が働きコメの澱粉質が糖化され、酵母の働きによりアルコールが生成される。この二重の醸造工程は「並行複発酵」と言われ、この複雑な自然の摂理による化学的変化の結果によって多様で美味な日本酒が製造される。

安全なコメと水を得ることは日本酒を醸造する上で重要なことであり、農村社会が農家の生業とともに保全されていることとも関係する。それは同時に、稲作が日本で採用された時から保全されてきたものでもある。

日本列島は豊かな自然環境や資源を有し、人々は様々な自然の中にある恵みを享受することができた。その中で、そこで暮らす住人は必然的に自然環境がもたらす恩恵や脅威に対し畏れを抱くことになった。
日本の社会はおおよそ紀元前800年代に稲作文化を採用したと言われているが、これはその他の極東地域と比較すると遅れている。例えば中国大陸の内陸部では紀元前8,000年と言われており、その理由は、必ずしも稲作の発祥と言われる東南アジア北部から距離があるということにとどまらず、日本列島の自然資源が住人にとって十分な食材を提供していたからだとも言われている。

紀元1世紀に編纂された中国の史書『論衡』では、日本のコミュニティの中でアルコール飲料が楽しまれていたことが記されているが、それらは、原始的な神道(自然崇拝)の中において神に捧げるものとして、あるいは社会の中で友好関係を育むものとして用いられた日本酒であると推測されている。

すでに神道と仏教とを共存し、取り込んだ後の時代である7世紀に記されたとされる平安時代の朝廷における法規の記録が残る『延喜式』という文献の中では、それ以降の日本食文化の中においても重要なものとして存在し続ける酒(日本酒)と茶が、朝廷の執りおこなう儀式の中に象徴的なものとして登場する。
日本酒は農村社会の枠組みや自然の恵み、地域の共同体で育まれた慣習の中から派生した神道を体現するものであるのに対し、仏僧により8世紀に中国大陸から本格的に持ち込まれたされたとされる茶は、知識、技術、権力などの現代化された機構体系を体現するものとして、仏教行事の中で使用されていた。

コメは、農耕を基盤とした社会の中で歴史的に通貨として機能し、課税の手段として用いられていた。コメを原材料とした醸造酒である日本酒も同様に、政治的機構において課税の手段として用いられ、現在の酒税にも繋がっている。しかしながら、現代においても日本酒は日本各地で生産され続けており、縮小傾向にある中でも約1,500もの醸造蔵が存在している。

清酒産業は、自動車産業と比較し「小規模で地域的な」産業と言える。例えば、年間の清酒産業の出荷額がおよそ4,570億円、従事者数が3万273人、出荷事業者数がおおよそ1,500社であるのに対し、自動車産業は出荷額がおよそ533兆1010億円、従事者数が81万4千人、出荷事業者は僅か14社である。

このデータが示すのは、日本酒の製造企業は自動車メーカーに比較し小規模で、また特色を持ち、地方に分布していることが推察されるということであり、事実、日本酒は北海道から沖縄まで全国各地で醸造されている。

日本酒は現代の経済的枠組みの中においても持続可能な農村文化の原型の中に保全されている。それは日本酒を醸造する際の最初に行う「蒸米」(酒米を蒸す)という工程においても、図1〔※Figure 1〕にあるようなその工程の背後にある様々な要素に目を向けることにより、そのエッセンスを垣間見ることができる。
例えば、醸造に必要な品質のコメを得るためには、安全な土壌や適切な気候、安全な水質といった汚染されていない環境が求められる。一方で、農家が継続的に農業を営むことができるだけの収入を実現することも要求される。また、自然災害や自然破壊を回避することに繋がる安全で豊かな自然資源を保全するという波及効果をもたらす農村社会の保全も要求される。

「蒸米」で使用される「甑(こしき)」(杉材の桶)は木工職人の生活を守ると同時に、それが山林の環境を保全することにつながり、それ自体が農村コミュニティを保つということにもなる。

すべての清酒醸造の工程が、類似する文脈的背景を有しており、自然、文化、経済的な観点から地域における自然と人々の暮らしの共生の要素を持っている。
これらが「地酒」(地域に息づく日本酒)文化として、現代において食の安全や、文化的多様性に触れる楽しみに繋がる郷土食や「祭り」のような慣習といったものとともに親しまれている。
日本酒(地酒)や食文化はそのような多様で複雑な要素によって構成され、ユネスコ(国際連合教育科学文化機関)が無形文化遺産に「和食」を認定したように、人間の豊かさに結びつく重要な目に見えない価値を有している。

世界的に著名な経済学者である宇沢弘文は「ゆたかな経済生活を営み、すぐれた文化を展開し、人間的に魅力ある社会を持続的、安定的に維持することを可能にするような自然環境や社会的装置」として「社会的共通資本」の概念を打ち出したが、本文では日本酒が「社会的共通資本」を繋ぎ、媒介する社会的な価値ある産品であると提唱したい。
そして、現代の経済的枠組みにおいて価値を顕在化するために、それらの見えない観点を可視化する必要があると考える。

また清酒産業は、持続可能性を実現する要素を持つ。なぜなら、「①価値ある財は社会的共通資本に結びつく多様な要素によって形成されているということを人々が認識し」、「②社会的共通資本の保全につながる見えない価値を認識して購買する思慮深い消費者によって消費が支えられ」、「③社会的共通資本に関係する見えない価値を持つ財を評価する指標や社会的環境を人々が保有し」、「④財が短期的に(消費者の便益として)、あるいは長期的に(社会的共通資本に波及効果をもたらすものとして)人々の質の高い暮らしの保全につながる形で機能、供給されており」、「⑤収益(あるいは資本)が供給者の暮らしの質を支えると同時に、社会的共通資本の保全にも結びつく形で再循環している」という五つの要件によって支えられる実体経済を基礎とし、人類の福祉に根ざしている「価値経済」を創造する切り口となりうるからである。

 

参考:図1

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〔以上〕

以下はプロシーディングスと本文(英語)です。

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【文責:宮田久司】

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