「学習する地域」をつくる① - 十分条件ではない地域ビジョン

今年4月より、自治体を跨いだ広域圏域での観光や地域振興の事業に関わらせていただいております。

2ヶ月が過ぎ、同地が何を目指していく必要があるかについて、個人的なビジョンが見えてきたので、それを記していきたいと思います。
それは、手法や個別具体的な事業・取り組みと言うよりは、同地のあり方を表すものとして浮かび上がってきたものです。
それは永続的で自己発展が可能な「学習する地域」の基礎をつくるというものです。

「学習する地域」という言葉は、ある時ふと頭に湧いたものですが、その元ネタとなるのは、ピーター・センゲなどが提唱している「学習する組織」に由来するものです。
センゲ氏らが始め、世界的に広がりを見せているSoL(Society for Organizational Learning)では、学習する組織を「未来を創り出す能力を持続的に伸ばしている組織」と説明していますが、同じ人が一定の土地(生活・労働圏)という括りを背景に組織化された共同体である地域社会においても組織として置き換えて考えることができるのではないかと思います。
つまり、「未来を創り出す能力を持続的に伸ばしている地域」の基礎をつくることが同地の地域振興・観光振興を推進する上で、もっと言えば「持続可能な本物の目的地・滞在地・居住地と成り得る地域」を共創造していく上で、最も重要となる上位的な課題(KFS)であると現在のところ想定しています。

「学習する組織」には、センゲ氏の著書『学習する組織-システム思考で未来を創造する』において記されているように5つのディシプリン(Discipline:訓練事項)とされる構成要素(後述)があり、それらの要件を認識として踏まえ、機能や能動を創造していくことにより、学習する組織としての有り様が形成されるという示唆があるのですが、「学習する地域」においても、同様にこの5つのディシプリンを地域全体でのアクティビティやマネジメントの中での基礎としながらも、それを支えるソフト的・内在的な機能(Opeating System・5つのディシプリンもその一機能としても位置付けられる)と、それを具体的に機能させる人的・組織的機能及び機構・組織体といったハード的・社会的顕在化された機能の双方が必要になってくるのかと思います。

OSというと、近年だとパソコンを連想しますが、キーボードやディスプレイ、ハードディスクなど様々なハード的機能と、詳しくはありませんがOS、ネットワーク、アプリケーションやフォーマット化されたデータといったものがあって初めてパソコンの運用経験とそこから便益を得るということが可能になります。
世界的に著名な経済学者である宇沢弘文氏は、「ゆたかな経済生活を営み、すぐれた文化を展開し、人間的に魅力ある社会を持続的、安定的に維持することを可能にするような自然環境や社会的装置」について「社会的共通資本(Social Common Capital)」という概念を提唱しましたが、まさに社会的な「装置」である「社会的共通資本」の一機能・要素として「学習する地域」という装置を共に創造し、プロトタイピングや検証・修正を重ねながらより効果的なものを運用し、便益を得ていくということが重要になると思います。

この社会的装置としての地域を経営する手段というものは、複合的な要素が重なり合い、形態として変化を遂げながら現在に至る訳ですが、センゲ氏が述べているように、世界と繋がり複雑化した要素が絡み、かつスピーディーな展開が生まれ、かつ人口構造や環境変化などとともに社会的な大きな変化が訪れる兆候を見せている今日において、その解決策を個別セクターや行政区などに分断せず、ともに考え、解決策を創造し、トライアンドエラーを繰り返し、相互に学びを得ながらより良い解決策を模索していく姿勢やあり方(つまりソフト的・ハード的機能)を共に創り上げていくということが必要であるという時代に来ており、そのタイミングであるということのなのだと考えます。

 

本文ですが、タイトルに『「学習する地域」をつくる①…』とありますように、内容について共通のテーマで何回かに分け勝手に連載していこうと考えています。
そして、今回は、それぞれの要素について、現段階に想定しているものをまず挙げてみたいと思います。これは一つの「着想」ですので、これから少しずつ検証や修正を加え、実態に当てはめて考えていくことが必要になると思います。
また、特にハードウェアとして顕在化させる組織的機能及び機構・組織体については、地域の実情や対象となる地域的範囲、産業や人材の構成状況などによって最適な状況というものが大きく違ってくると思われますので、ハードウェアについて、今回言及は一旦棚上げさせていただきたいと思います。これは、同じパソコンの機能といえど、今でもスマホ、タブレット、パソコンのような多様なインターフェースがありますし、発展系ではICTのようなものも考えられると思います。
ここはあくまで、ソフト面の「原型」として一旦提示したいと思います。

<自律的創造のサイクル>
1.関係者の知恵・意欲の引き出し

2.情報運用機能の強化

3.思考の枠の整理・創造

4.学習する地域のOS(学習する組織の5つのディシプリン・地域のOSで顧みる4つの要素)

5.連携・拡散・自己増殖による創造

6.組織・機構を活用した成果の創出

<自律的学習のサイクル>
1.関係者の知恵・意欲の引き出し

2.情報運用機能の強化

3.思考の枠の整理・創造

4.評価・検証

5.自己学習・共同学習

6.マネジメントシステムの運用

7.連携・拡散・自己増殖による創造

相互のサイクルに重複や関連性・影響の及ぼしあいは存在すると思いますが、象徴的な要素として整理したものです。

ちなみに「学習する地域のOS」に関しては、「学習する組織の5つのディシプリン」と「地域のOSで顧みる4つの要素」を基本的な要素として想定しています。
それぞれを標語として列挙しておきます。

<学習する組織の5つのディシプリン>
1.自己マスタリー
2.メンタルモデル
3.共有ビジョン
4.チーム学習
5.システム思考

<地域のOSで顧みる4つの要素>
1.共創体制
2.評価指標
3.公的根拠のパラダイム
4.フィードバック・自己修正システム

以上ですが、個別要素について今後それぞれ説明を加え、一つの「論」として提唱と実証を加えていきたいと思いますが、非常に長たらしくなりそうなので、シリーズとして連載しながら内容を整備していきたいと考えております。
実証を加えつつディテールを作っていくので、途中で修正が加わる可能性もありますが、事前のご了承をお願い致します。

観光・産業振興機構 のコピー.001

さて、今回の副題にもある「十分条件ではない地域ビジョン」についてですが、この全体像を見れば、地域ビジョンというものがどこに位置づけられているかがわかるかと思います。
ここでいう「学習する組織の5つのディシプリン」のうちの「共有ビジョン」に該当する部分が大きいと思います。
つまり「学習する地域」をつくるという命題の中である一つの側面にすぎず、他の要素もしっかり見て、考えて、創っていくということが不可欠ということだと思います。しかしながら、この「共有ビジョン」自体は非常に重要であるということは一方で言えます。

共有ビジョンとは関係者間で共有されている、あるいはしているビジョンということになりますが、これがお題目として掲げられれている「我が社の使命」や既存の行政が策定した「産業振興ビジョン」のようなものであるという訳ではなく、人々の内的な実態を反映している現象であるということが重要になります。
つまり、各人の個人のビジョンと調和し、コミット(それを自分のものとして主体的・能動的かつ献身的に関わり貢献)する意志を持つという実態が反映されているかが重要になるということです。
また、この共有ビジョン(ここでは地域ビジョンないし地域共有ビジョン)は、各人のコミットをもとに生成され、運用されており、同時にそれに基づいた成果指標を持つということが併せて重要になるかと思います。

東日本大震災の際は、多くの人が被災地のできるだけ早くの復興を願い、各人が出来ることでそれぞれが持つリソース(資金・労力・知恵など)を供出したと思います。この時、共通した、あるいは策定され文書化された「ビジョンステートメント」のようなものは無かったと思いますが、それぞれに自律的に、またその中で自律組織化されて、復興のための動きを支えた(もちろん被災地の人々は自分たちの出来ることで懸命に復興のための一歩を踏み出した)のだと思います。つまり、そこにビジョンが共有され、機能していた状態が生成されていたということになります。
この事例のように、そのようなビジョン(共有ビジョン)とは、無理やり「作りあげるもの」ではなく、潜在的に、あるいは顕在化されて「湧き出てくるもの」、あるいは「作りあげられていくもの」であるように思います。

あなたのビジョンはなんですか?、この地域のビジョンは何ですか?、この事業のビジョンは何ですか?との問いに対し、すぐに決めたり、一定量のワークショップと専門家の見識を入れて策定するというものではないと断言したいと思います。
その多様な声なき声、あるいは声が上がった声(やその背景)に耳を澄まし、根底にあるものに思慮を巡らせ、形を掴んでいく。そんなプロセスなのではないかと思っていますし、それは常に流動的なもの、繊細で把えづらいものでもあるというように思います。
もちろん、その中で相互に影響を与え合いながらすり合わせしていく「ダイアログ(対話)」の機会やプロセスも重要になってくることでしょう。

と言いながらも私自身は、この2ヶ月で事業を執行しながら、他者の声、自分自身の声を聞きながら一つのビジョンが生成されてきたように思います。文面化すると『「持続可能な本物の目的地・滞在地・居住地と成り得る地域」の基盤を「学習する地域」づくりを通じて共創造していく』というものです。
次回は、この私自身の本事業に対する「個人ビジョン」から出発し、地域ビジョンや全体の「学習する地域」を構成する要素にどのような関連性を持つかについて整理・言及したいと思います。

 

【文責:宮田久司】

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