見えない資産を伝える

久悦では、ISF(国際日本酒普及連盟)を通じて、国内外における日本酒と食文化を始めとした文化の普及のための事業を推進しています。

国内外ですので、もちろん海外での動きも対象となります。

先日は、フランス南部のビール醸造家からコンタクトがあり、現地で100%フランス産の地酒を造りたいということで相談がありました。

フランスをはじめ、欧州でも日本酒に対する理解が進み、一部の中では広がってきていますが、一方でマスプロダクトとしての中国産清酒や、場合によっては蒸留酒なども日本酒として売られている実情があります。

そのような環境にあって、100%フランス産地酒を造り、その楽しみや価値を伝えていこうとする彼らは、私たちが現地で広めていきたい日本酒の(社会的価値も含めた)文化的価値を広めていくことではじめて、彼らのやっている事業が報われるという点において、私たちと利害が一致しており、運命共同体でもあります。

私たちも、彼らの日本酒に対する情熱や、感性に共感をし、プロジェクトの実現に向けた支援をすることになりました。

フランスでは、もちろんワインのような地酒文化(テロワール・ワインの文化)や社会環境の整備が進んでおり、彼らの取り組みは発信という側面のみならず、保全や自国の地酒を取り巻く社会環境整備の上でも有益であることは間違いないものと思われます。

先日は、日本国内の醸造家、公的機関の醸造研究者、大学研究者(応用微生物学、地理学等)などの関係者を紹介し、現地製造にかかる課題整理と解決のためのチーム作りを行いました。

すべての関係者に対して熱心に質問し、メモを取る彼ら。
− ある醸造家の話とあなた(私共が紹介した醸造家)の話、蔵元によってこの点については言っていることが一致しないのですが・・?
− 日本酒を作るにあたり水が重要であるということですが、その採水地や水源を保護する規制はあるのですか?

・・・などなど、鋭い問いかけも随所に出てきます。

何せ、彼らの使用するお米はカマルグというフランス南部の地域で作られたものを予定しているのですが、自然保護地区であり、かつ合鴨農法で作られた無農薬のものを用いる予定なのです。
自然保護区、また彼らの醸造地であるラングドック一帯も、もちろん地域でAOC/IGPの原産地呼称制度に取り組んでいるという点で地域性と環境を守り、食文化の保全と発展を支える社会環境整備という点において(あるいは消費者理解やそのために「食の遺産と文化のフランス委員会(Repas gastronomique des Français)」などが進めているガストロノミーの普及・啓発という点においても)、彼らの方が確実に上手なのです。

我々日本の文化は、ある意味今までの延長線上の中で生成され、継承されてきているものを、現代の中で享受し、また担い手となり受け継いでいるということに過ぎないため、あえて客観的視点から取りまとめ、様々な地域軸や分野軸を横断して情報化(形式知化)させる機会が特にある訳ではないため、実のところ統合され、一貫した情報が存在していないというのが日本酒を取り巻く一つの実情でもあると思うのです。

ましてや、その整理された情報を元に、保全や振興のための手立て(施策)を捻出していこうという方向性や実情なんて・・

彼らのメモを取る姿を見ていて、「むしろ彼らの方がより客観的に、正確に、日本酒というものを捉え、伝えていくことができるのではないか。それは大変ありがたいことだが、もう少し日本人もその点を踏まえて発信できないものなのだろうか?」

などと感想を持ったのでした。

この客観的に見ながら、正確に捉え、形式知化させて発信していくという事例は、日本の文化を見る限り事例は稀有なのではないかと思います。

先日、クラシック専門家の方に「クラシック音楽の起源と定義」を聞くと、グレゴリオ聖歌に始まる譜面化された音楽がその起源であると聞きました。
日本の音楽の授業も、国歌も、ある意味このクラシック音楽の系譜上に存在しているとも言えるのではないかと思いますが、一方で日本の音楽について、そこまで体系化・系譜化されたものは無いのではないでしょうか?

日本の演劇の世界では、坪内逍遙がその系譜を整理したと言われていますが、日本においては存在感がありません。
武士道であれば新渡戸稲造が、禅や日本の宗教的観念は鈴木大拙が、茶の湯については岡倉点心(覚三)がその役割を担ったと思われますが、きっと「日本酒(SAKE)」についても、そのような目に見えない(Intangible)ものを分かりやすく浮き立たせ、シェアし、保全・継承・発展につなげるということが不可欠であると思います。

最近は、よく地域振興のネタとしてもユネスコの無形文化遺産(Intangible Cultural Heritage)登録が持て囃されていますが、これも目に見えづらい文化的価値の意味と意義を捉え、現代社会・経済環境の中で保全する意味性を浮き立たせることができ、かつ発信のためのツールとして使える有益な施策であると思います。

実は、この施策は採用された当時ユネスコ事務局長であった松浦晃一郎氏のイニシアチブもあり、目に見えないものを大切にするアジア的感性からその遺産を保全することを目的に実現されたものなのだそうです。
目に見えない伝統的文化価値を知り、伝えることの重要性を認識し、実行に移せる稀有な日本人がここにも一人いたということでしょうか。

もちろん、現代は世界的に人々がつながり、共通の課題や関心、目標を共有することのできる時代です。

私たちは、そのような背景から、日本人のみならず、今回のフランス人のような意志ある人々と協業し、この見えない資産を見える化させ、その価値を様々な観点から浮き上がらせ、発信や保全の基礎として用いていきたいと考えております。

きっとクールジャパン施策で言われている「コンテンツ化」の基盤はそこにあるのでしょう?
と思うのです。

〔文責:宮田久司〕

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