伝統資産から学ぶ〜清酒業界の持つ持続可能性の側面

昨年10月9日に名城大学ナゴヤドーム前キャンパスにて開催された国際フォーラム「持続可能な開発と文化を目指して〜アジアからの学びとアジアへの教訓」において、日本酒産業に含まれる人々の豊かさにつながる経済や生態系の持続可能性に関する見解を発表しました。

このフォーラムは名城大学外国語学部の主催により行われたもので、私も発表をさせていただきましたが、先日プロシーデングスが発刊されましたので、以下に日本語訳文を掲載させていただきます。

ぜひご一読くださいませ。
また、以下のURLからはフォーラムすべての要約がご覧になれます。
http://www.meijo-u.ac.jp/academics/foreign/pdf/forum2017.pdf

 

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伝統資産から学ぶ〜清酒業界の持つ持続可能性の側面

 

コメ由来の醸造酒である日本酒は、日本において約20世紀の間継承され消費されてきた。それは農村経済と密接な関係があり、自然の摂理に基づく環境に優しい製造手段を採っており、人々の信仰や慣習の中で保たれてきた。
この伝統的な製品は、現代の市場においても地域や職人ごとに多様な種類のものが消費されている。
本文は、日本酒に内在する持続可能性の要件を持つ「価値経済」に対するヒントについて言及する。


日本酒の主要な原材料はコメと水である。それに加え、麹菌の糖化酵素が働きコメの澱粉質が糖化され、酵母の働きによりアルコールが生成される。この二重の醸造工程は「並行複発酵」と言われ、この複雑な自然の摂理による化学的変化の結果によって多様で美味な日本酒が製造される。

安全なコメと水を得ることは日本酒を醸造する上で重要なことであり、農村社会が農家の生業とともに保全されていることとも関係する。それは同時に、稲作が日本で採用された時から保全されてきたものでもある。

日本列島は豊かな自然環境や資源を有し、人々は様々な自然の中にある恵みを享受することができた。その中で、そこで暮らす住人は必然的に自然環境がもたらす恩恵や脅威に対し畏れを抱くことになった。
日本の社会はおおよそ紀元前800年代に稲作文化を採用したと言われているが、これはその他の極東地域と比較すると遅れている。例えば中国大陸の内陸部では紀元前8,000年と言われており、その理由は、必ずしも稲作の発祥と言われる東南アジア北部から距離があるということにとどまらず、日本列島の自然資源が住人にとって十分な食材を提供していたからだとも言われている。

紀元1世紀に編纂された中国の史書『論衡』では、日本のコミュニティの中でアルコール飲料が楽しまれていたことが記されているが、それらは、原始的な神道(自然崇拝)の中において神に捧げるものとして、あるいは社会の中で友好関係を育むものとして用いられた日本酒であると推測されている。

すでに神道と仏教とを共存し、取り込んだ後の時代である7世紀に記されたとされる平安時代の朝廷における法規の記録が残る『延喜式』という文献の中では、それ以降の日本食文化の中においても重要なものとして存在し続ける酒(日本酒)と茶が、朝廷の執りおこなう儀式の中に象徴的なものとして登場する。
日本酒は農村社会の枠組みや自然の恵み、地域の共同体で育まれた慣習の中から派生した神道を体現するものであるのに対し、仏僧により8世紀に中国大陸から本格的に持ち込まれたされたとされる茶は、知識、技術、権力などの現代化された機構体系を体現するものとして、仏教行事の中で使用されていた。

コメは、農耕を基盤とした社会の中で歴史的に通貨として機能し、課税の手段として用いられていた。コメを原材料とした醸造酒である日本酒も同様に、政治的機構において課税の手段として用いられ、現在の酒税にも繋がっている。しかしながら、現代においても日本酒は日本各地で生産され続けており、縮小傾向にある中でも約1,500もの醸造蔵が存在している。

清酒産業は、自動車産業と比較し「小規模で地域的な」産業と言える。例えば、年間の清酒産業の出荷額がおよそ4,570億円、従事者数が3万273人、出荷事業者数がおおよそ1,500社であるのに対し、自動車産業は出荷額がおよそ533兆1010億円、従事者数が81万4千人、出荷事業者は僅か14社である。

このデータが示すのは、日本酒の製造企業は自動車メーカーに比較し小規模で、また特色を持ち、地方に分布していることが推察されるということであり、事実、日本酒は北海道から沖縄まで全国各地で醸造されている。

日本酒は現代の経済的枠組みの中においても持続可能な農村文化の原型の中に保全されている。それは日本酒を醸造する際の最初に行う「蒸米」(酒米を蒸す)という工程においても、図1〔※Figure 1〕にあるようなその工程の背後にある様々な要素に目を向けることにより、そのエッセンスを垣間見ることができる。
例えば、醸造に必要な品質のコメを得るためには、安全な土壌や適切な気候、安全な水質といった汚染されていない環境が求められる。一方で、農家が継続的に農業を営むことができるだけの収入を実現することも要求される。また、自然災害や自然破壊を回避することに繋がる安全で豊かな自然資源を保全するという波及効果をもたらす農村社会の保全も要求される。

「蒸米」で使用される「甑(こしき)」(杉材の桶)は木工職人の生活を守ると同時に、それが山林の環境を保全することにつながり、それ自体が農村コミュニティを保つということにもなる。

すべての清酒醸造の工程が、類似する文脈的背景を有しており、自然、文化、経済的な観点から地域における自然と人々の暮らしの共生の要素を持っている。
これらが「地酒」(地域に息づく日本酒)文化として、現代において食の安全や、文化的多様性に触れる楽しみに繋がる郷土食や「祭り」のような慣習といったものとともに親しまれている。
日本酒(地酒)や食文化はそのような多様で複雑な要素によって構成され、ユネスコ(国際連合教育科学文化機関)が無形文化遺産に「和食」を認定したように、人間の豊かさに結びつく重要な目に見えない価値を有している。

世界的に著名な経済学者である宇沢弘文は「ゆたかな経済生活を営み、すぐれた文化を展開し、人間的に魅力ある社会を持続的、安定的に維持することを可能にするような自然環境や社会的装置」として「社会的共通資本」の概念を打ち出したが、本文では日本酒が「社会的共通資本」を繋ぎ、媒介する社会的な価値ある産品であると提唱したい。
そして、現代の経済的枠組みにおいて価値を顕在化するために、それらの見えない観点を可視化する必要があると考える。

また清酒産業は、持続可能性を実現する要素を持つ。なぜなら、「①価値ある財は社会的共通資本に結びつく多様な要素によって形成されているということを人々が認識し」、「②社会的共通資本の保全につながる見えない価値を認識して購買する思慮深い消費者によって消費が支えられ」、「③社会的共通資本に関係する見えない価値を持つ財を評価する指標や社会的環境を人々が保有し」、「④財が短期的に(消費者の便益として)、あるいは長期的に(社会的共通資本に波及効果をもたらすものとして)人々の質の高い暮らしの保全につながる形で機能、供給されており」、「⑤収益(あるいは資本)が供給者の暮らしの質を支えると同時に、社会的共通資本の保全にも結びつく形で再循環している」という五つの要件によって支えられる実体経済を基礎とし、人類の福祉に根ざしている「価値経済」を創造する切り口となりうるからである。

 

参考:図1

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〔以上〕

以下はプロシーディングスと本文(英語)です。

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【文責:宮田久司】

地方創生にこそ「量」ではなく「質」を

今回は、最近少しずつ思っている「ソーシャル・イン」の考え方を含めて、地方こそ「量」ではなく「質」を考えるべきとの持論を述べたいと思います。

 

最近の地方の施策として良く上がる共通のテーマとして「企業誘致」「観光誘客」「移住定住促進」の三つは、本当にどこに行っても聞かれます。

少し古い話でいうと地域間競争という言葉もありましたが、観光誘客の外国人観光客以外は、基本的には人口減少の過程で減っていくパイに対して、奪い合うという構造が生まれてくることが必至です。

 

しかし、よくよく考えると短期的に企業誘致に成功したとしても、移住定住の誘致に成功したとしても、これはあくまで部分最適の話で、移転した元の地域や移住定住の元の地域にとっては痛手であるということが言えるのではないかと思います。

この点だけ見ると、あくまで先のテーマとその積極的な推進が導くものは「部分最適」としての結果ということになるのではないか?
ということが、疑問点として残ります。

そこに、生活者にとっての短期的なベネフィットと合わせ、人類にとっての長期的なメリットという視点も含めて考慮していくことが必要になると思います。

 

私の取り組んでいる「食」や「お酒」に関しても関連してきますが、例えば「美食」を考えた場合、当然のことながらその食べるシーンや調理の技術ということが必要なのはさることながら、その背後で成立要件となる「食材」の多様性や安全性というものは必至となります。

その食材の多様性を支えるのが、気候や土壌、そして生産者のクラフツマンシップに根ざした「郷土性の保全」ということになります。

そして、その郷土性の中には生業の中に培われてきた自然の保全に対する産業や文化面からの慣習や、その土地ならではの食文化によって培われた食材や調理方法なども存在します。

また、娯楽や宗教的慣習や感性、思想なども存在しているでしょう。

そのような「文化的多様性」が保たれていることが、結果として人々の生活における「文化的豊かさ」を構成し、人々にとっての「価値」へと反映されていくのだと考えます。

 

ここで考えるのは、そのような人々の「文化的豊かさ」へと結びつけるための要素についてしっかりと吟味し、現存している資源をしっかりと認識し、現代的な価値へと見える化させ、それを現代の貨幣経済の循環システムの中に反映させて価値付けし、産業化させることも一つの選択肢として考慮し、「郷土性の保全」へと結びつけていくという考えが必要なのではないかと思うのです。

そして、地方においてはそれを支えるための視点や施策のほか、価値付けを促すツール、人々の感性への啓発などを行い、人々の持続可能な豊かさの実現に対し、意義ある提案と実践をしていくということが大切であると考えます。

 

それは、単に人や企業を呼び込むという単純な数を追う「量」(に対するパイの奪いあい)の理論ではなく、人類の豊かさに資するシステムを提案し、それを具現化させることで個々人の幸福にアプローチしていく「質」(の共同創造)の理論になってくるのではないかと思います。

そして、「質」を追った結果としてまず住んでいる住民が心身とも豊かさを実感することにつながり、場合によっては数値としても人や企業が移ってくるということもあるとは思います。

しかしながら、やはり重要なのは数(すなわち「量」)が減っても「質」は向上し保たれるというモデルをどう共同創造していくか、ということなのかなと思います。

 

地域間競争を促し、勝ち組と負け組みを分けるのではなく、どう人口減少や過疎化が進む中で住民の豊かさを高め、質の高い暮らしを現代の経済的環境の中で(あるいはそこから先を創造し)実現していくかの方が問われているのだと強く感じます。

そして、その価値評価(evaluation / valuation)の方法論についても重要になってきます。

ということは、その価値評価を支える基礎的な考え方を一層整理し、明確にし、世に問うていくことも重要になります。

 

「地方創生」には、そのような観点からしっかり肝に銘じ、知恵を絞り、ともに創造していくことが重要であると私は考えます。

そして、私自身もその応えを見出すべく、探求と実践を重ねていく次第です。

 

【文責:宮田久司】

フォーラム「美食とお酒の広場」のご案内

国際日本酒普及連盟(ISF)は、東海4県21世紀國酒研究会、名城大学農学部応用微生物学研究室、名城大学日本酒研究会と共催で「国際的な日本酒の普及、日本酒文化や関係する社会環境の整備・保全」に関する知識と実践の共有と探求を目的とした「場」として、フォーラム「美食とお酒の広場」の隔月開催を計画しております。

今回、第一回として、3月18日(土)午後4時30分より、名城大学ナゴヤドーム前キャンパスにて、前回愛知県常滑市の澤田酒造株式会社を会場に行われたシンポジウム『中部からクールジャパン発信;知多半島を例に中部エリアの食文化発信のあり方を考える』の内容を踏まえ、地域固有の食文化保全やクオリティを担保する社会環境整備のあり方と振興施策について、長野県ものづくり振興課日本酒・ワイン振興室の協力を頂き、長野県で2003年以降取り組みが継続されている『原産地呼称管理制度』の話を中心に、長野県の「美食とお酒」に関する振興戦略と実践について、長野県名古屋事務所の坂下広氏にご講話いただく予定です。

また、前回のシンポジウムで参加できなかった名城大学農学部教授の加藤雅士氏より、本企画の趣旨及び、海外視察等を含めた内容報告等についても、前段で発表があり、郷土性を打ち出した「地酒」文化の保全や価値の確立に向けた取り組みへの理解と関心を深め、また中部圏での連携や切磋琢磨につながることが期待されます。

第二部では、国際唎酒師として活躍するbien-美宴の吉田綾子氏のナビゲーションにより、会場の名城大学ナゴヤドーム前キャンパスに併設するレストラン「MU GARDEN TERRACE」にて、信州の特色ある食材を用いた食事のほか、主に「原産地呼称管理制度」の認定を受けた長野県の地酒を楽しむ企画・交流会を予定しております。

ぜひこれを機に、長野県の食文化の魅力と、その振興と保全に関する行政としての取り組みへの理解を深めていただくと同時に、関心ある皆様の中部圏における文化振興への理解協力を進め、地域的魅力を高めていくことができればと期待しております。

皆様のご参加をお待ちしております。

※イベントページはこちら👇
http://kyuetsu.com/sakeforum_01/

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<日時>
2017年3月18日(土)【第一部】16:30〜18:00・【第二部】18:30〜20:00

<会場>
名城大学ナゴヤドーム前キャンパス【第一部】N館 DN302講義室・【第二部】MU GARDEN TERRACE

<講師・ナビゲーター>
【第一部】加藤雅士 氏(名城大学農学部応用生物化学科 教授)・坂下広 氏(長野県名古屋事務所)
【第二部】吉田綾子 氏(bien-美宴 代表)

<参加費>
【第一部】一般 1,000円、学生 無料・【第二部】一般 5,000円、学生 3,000円(アルコールを飲まれない場合500円引)

<開催主体>
主催/国際日本酒普及連盟
共催/東海4県21世紀國酒研究会、名城大学農学部応用微生物学研究室、名城大学日本酒研究会
後援/中部からクールジャパン発信委員会
協力/長野県、MU GARDEN TERRACE、bien-美宴
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■ お申し込みは事前予約をお願いいたします

お申し込みに際しては、このメール(miyatah@kyuetsu.com)に・・・
①お名前
②参加の部(一部・二部・いずれも/二部参加の場合お酒を飲むか否か)
③一般 or 学生
④連絡先(住所、メールアドレス、電話番号)

を記載してご連絡ください。
※申し込み受付締め切り:3月10日(金)までです!

シンクタンクとお酒・食文化

近年、個人的には良い傾向だと思いますが、産官学連携や金融機関を含めた連携など、多様な分野で既存の垣根を越え、社会的価値の創出を目指す動きが多く見られるようになりました。

社会の展開がスピーディーになり、国際的な動きとの関連性が多くなったり、また、人口増加と経済成長が進み国際的なプレゼンスが高まっていたある時と比較すると、何かと忙(せわ)しく、危機感を持たざるを得ない環境だからこそ、こう言った動きが「トレンド」になっているのかもしれません。

こう言った動きが、流行の枠を超え、単に短期的なイベントとして存在する以上に、長期において、社会的価値の創出や、それを支える枠組みとして機能するに足るものとして捉え、物事が進められていくことを願うばかりです。

 

私はかつて行政で仕事をしていましたが、行政の仕事に関する情報、ノウハウ、戦略等の継承性については多くの課題があると考えています。

物事をより本質的に捉え、関連する周辺環境を把握し、ネットワークを獲得し、それらを含めたソリューションとしての政策を理解し、打ち出し、執行していくには、2年、3年での異動が一般的な職員では厳しい側面があります。

また、それゆえに、あるいは人材的な側面や組織文化からノウハウの蓄積や構築が難しく、議論の基が十分に存在していないということも課題でしょう。

 

一方、産業界はというと、生存競争に晒されている中で、その多くは自社の生き残り、売上や利益の向上、製品のクオリティの向上など社会的にはその機能の一端を担う「部分最適」の領域で常に情報やノウハウを獲得し、結果として社会の歯車となり、社会貢献するという形になる社会の「担い手」という側面が強いと思います。

 

個人的には産学官の中で、最も専門的見地による情報・知識の集積があり、かつ専門的な研究職や内容があまり動かないという観点から継承性・継続性があるのは大学であるように思います。

とはいえ、大学における研究領域も細分化されており、綜合的に物事を関連づけ、社会的需要と連結させて、その関わりの中でタイムスケジュールも含めて社会的価値に落とし込んでいくだけのノウハウを持っているかというと、そのような事例は稀であると思います。

 

しかしながら、今後に、このような社会的需要に基づく価値の創出に対し、人(ネットワーク)・物・金・情報(専門知識)などを関連づけ、継承性ある戦略、機能の創造、アウトプットを行うコーディネーターの存在は、より重要性を増すように感じます。

国際舞台における日本の外交については、外務省が『日本における外交・安全保障関係シンクタンクのあり方について〜外交力を強化する「日本型シンクタンク」の構築〜(外交・安全保障関係シンクタンクのあり方に関する有識者懇談会 報告書)』[平成24年8月] に記載しているように、外交的手腕において良し悪しは別として謀略的に機能されている英国や米国においては、英国王立国際問題研究所(チャタムハウス)や、米国の外交問題評議会(CFR)などがその人材や情報・思想、あるいは政策立案や執行に際して強い影響力を持っていることは良く知られている一方で、日本において政策立案機関、立法機関、行政機関などの外部に、知的継承性や実効性を持つ機関が存在していないということが指摘されています。

外交については、非常にナーバスなこともあるので、ここでこのシンクタンク機能や勢力の存在についての是非は言及しませんが、社会的検討課題(Public Matter)に関して、しかるべき理解と情報を束ね、専門的理解やネットワークの継承性を持ち、多様な機関と協業してその解決、あるいは価値創出や機能構築にあたる専門機関、ないしプラットフォームとしての社会的機能が必要となるということは、これからの潮流ではないかと考えています。

 

さて、ここから食文化やお酒についてを見るとどうかというと、海外においてももちろん様々なテーマにおいて多様な分野の方が、その社会的機能の構築について動いています。

例えば、私もお会いしたことのあるジャン=ロベール・ピット氏は、Repas gastronomique des Français(食の遺産と文化のフランス委員会)などを立ち上げ、関連する学術的情報の集積、経験としての情報提供、教育への反映などあらゆる観点からのアプローチを行っていますし、より遡れば、1986年にイタリアのカルロ・ペトリーニ氏によって始められた「スローフード運動」も、マクドナルドの進出に象徴される食文化や環境喪失の危機という社会的検討課題に直面し、その解決やその先にある食文化の振興と保全という社会的価値の創出ということに対し、大学やその他の機関が必要なアプローチを行い、今日は全世界的に展開されています。

 

さて、日本の食文化やお酒ということに話を持っていきますと、人類に与える価値や文化的ユニークさ、それが成立する背景にあった社会的感性やそれによって積み上げられてきた慣習、地理的背景など様々な観点から、他国に劣らず、価値あるものであると思えます。

それは、国外の方々がその魅力を感じ、魅了されていくことからもうかがえます。

2013年12月には、「和食」がユネスコの無形文化遺産に登録されましたが、それも形態や味覚のみならず、『「自然の尊重」という日本人の精神を体現した食に対する「社会的慣習」』として、目に見えない資産的価値を評価されてのことでした。

しかしながら、この食文化やお酒の文化を支え、文化、産業、環境など多様な側面を踏まえ、国内外への普及とともに保全を図るための継承性と包括性のある機能やプラットフォームは存在していないのではないでしょうか?

日本酒に関して言えば、東広島市に醸造研究において蓄積のある種類総合研究所がありますが、今日の社会的な情勢も踏まえた多面的視点から研究に対するアプローチを図り、それを実効性あるものとして展開していく機能を有しているかというと、そうではありません。

ISF(国際日本酒普及連盟)では、これらの現状が抱える状況に対し、国際的なネットワークや叡智の集約、人材や情報の集約と連携から、主に大学等の学術機関と協業し、これらの社会的機能を構築していくことに対し、現在準備を進めております。

日本酒は、米と水のみ(もちろん麹・酵母も)で造られたアルコール飲料ですが、その液体を通してみる世界の内外に、多様な側面が関連性を持ってくっついてきます。

さらに余談を言えば、関わる人の「欲望」までもがくっついているのですが、それはさて置き、その多様な関連性に関する情報や実践の集約、人との結びつきこそが、その魅力の多様な引き出しと広がりを提供する素地を作り、多様な側面からの価値を確立させ、その存在意義を強固にしていく(すなわち人にとって、とても欠かせないものになる)のだと思います。

ISFのカバーする領域と取り組みは、そのような考えから、国際的な日本酒普及を通じた振興と文化的多様性の保全という観点において、国際的に重要なスタンダードの役割を果たすものと確信し、前進しています。

皆様のご理解と、応援、引き続きのご指導をお願い申し上げます。

〔文責:宮田久司〕

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「地酒」と「原産地呼称管理制度」

昨日から長野県内に滞在し、様々な蔵元や郷土食を巡っています。

3月18日から名城大学ナゴヤドーム前キャンパスで隔月開催する予定のフォーラム『美食とお酒の広場』の第一回が、長野県の「原産地呼称管理制度」の話が主で、また第二部では信州の食とお酒の組み合わせを楽しむ会を開催する予定のため、事前の調査を兼ねた巡回です。

もちろん明日は休暇を兼ね、趣味のクロスカントリースキーをするのですが!!

ということで、今回は蔵元だけで東西南北、計8蔵を回りました。

有名どころだと、協会7号酵母の元である諏訪の宮坂醸造株式会社。「真澄」の銘柄で知られています。

一方で、完全に家族経営だけでやっている小規模な蔵元もあります。

それぞれが魅力的な蔵であるばかりでなく、豊かで美しい水源の存在が信州の魅力でもあります。

 

以下に添付してあるものが、長野県原産地呼称管理制度の審査基準です。

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【※長野県『原産地呼称管理制度』資料より転用】

 

欧州のAOC(Appellation d’Origine Contrôlée)を倣ったこの制度は、日本では先進的に平成14年よりスタートし、すでに10年以上が経過していますが、消費者としてみた場合、このような取り組みの存在は、少なからず商品選択の基準や安心感につながるのだと思います。

例えば・・・

● 自家醸造酒であり、液化仕込みではなく、精米から瓶詰めまで一貫して県内で行なわれているということから桶買いして転売せず、しっかりと清酒の製造工程を踏まえて造られている

● 採水地がわかる(水脈や性質などの特色をつかむことができる)

● 原料米の品種や精米歩合などが明記されていることの安心感がある

 

などがあると思いますが、業界や地域としても・・・

● 顧客にとっての安心感が購買につながる

● 産地を反映させた「地酒」(Terroir Sake)としての価値とその定義を広め、価格を保つことができる

● 県内の酒造好適米の生産保護とクオリティの向上につながると同時に県交配の酒造好適米の認知につながる

● 水源の明記が各所の名水のPRと理解の向上による(環境)保全等にもつながり得る

 

 

と言ったメリットがあり、熱心に「地酒」の醸造に取り組む蔵元にとって、また、長野のお酒を飲みたいと思う消費者(旅行者も含む)にとって、また「地酒」の文化や環境(制度環境や経済環境も含む)の保全という側面においても意義のある、「三方よし」の制度ではあると思うのです。

 

しかしながら・・・

● 全体の製品の中で適応されているものはごく一部であり

● 消費者にも十分に認知されているとは言い難く

● その制度的メリットを十分に生かしきれていない

 

という現状も一方であると思われますし、蔵元としてもそのメリットをより実感したいということもあるように感じました。

 

私が昨年1月にお邪魔したルクセンブルク政府のワイン=ワイナリー機関(IVV:Institut Viti-Vinicole)でもEUのワイン法や現代の消費者趣向を踏まえ、1935年から取り組まれてきた「Marque Nationale」から新たに「AOP – Luxembourgeois」が2014年よりスタートしていますが、市場に出回っているルクセンブルク産のワインには、必ずAOPのラベルが裏面に貼ってあります。

生産者への浸透度という面において、まさにde jure スタンダードとして定着しているということが伺えます。

もちろん、1935年から導入していた「Marque Nationale」の下地があり、かつシーリングされた「地ワイン(Terroir Wine)」でなければ生存できないという環境があるということもあると思います。

 

この「AOP – Luxembourgeois」ですが、導入の目的は「Marque Nationale」を継承し、

① 生産地と品質を担保し、本物としての消費者理解を促す

② 価値と価格を保ち、生産者が良い製品を生み出す意欲を高める

という二つの目的があるのですが、きっとこれは長野県の原産地呼称管理制度も共通しているものでしょう。

これから、消費者も徐々に「本物の」地酒を求める市場環境に変遷されると、個人的には予測している中で、その本物を生産者側、消費者側の両側面から担保する本施策のこれからの発展を願うばかりです。

 

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日本における米を原材料とした醸造酒は、少なくとも1900年以上前には存在したようですが、その土地の恵みである米をその土地の水と酵母で醸す、まさに大地の恵み(Terroir:テロワール)を代弁するものであり、その恩恵を神に感謝し分かち合う重要な触媒でもありました。

現代においても、この歴史的文脈もさることながら、その土地の水、米、酵母、そしてもちろん人により醸された自然の恵みとしての日本酒は、食との組み合わせなども含め、土地の固有性、固有の価値を生み、様々な固有の価値を楽しむことができる文化的多様性が存在することが、生活者・消費者としての「豊かさ」を構成する重要な要素になると思います。

だからこそ、AOC/AOPのような原産地の呼称だけでなく、原産地の資産を守り、消費環境や社会環境を整備するということが重要になります。

私たちは、欧州のみならず、国内の先進地である信州も見て、学ぶことが必要です。

歴史

 

最後に、課題を挙げておきます。

例えば、今回訪問した木曽の酒蔵「中善酒造店」や松本の「大信州酒造」などは、近隣地域で栽培する自家栽培米や、蔵の周りの水田で生産する契約栽培米を利用する、土地の固有度も高い「地酒」でしたが、例えば「真澄」など他の蔵は、あくまで長野県産「美山錦」や「ひとごここち」など、範囲としてもより広く取り扱っているということが窺えます。

AOP – Luxembourgeois では、地域の限定度合いやブドウのヘクタールあたりの栽培量により「LIEU-DIT」、「COTEAUX DE」、「CÔTES DE」という3パターンの表記がされていますが、やはりより限られた範囲で、顔が見える関係から原材料米を調達し、その土地の農村文化を保全していく(これは、自然保護や文化の継承といった観点も含めた農村経済への寄与による社会的共通資本の保全につながる)ことが、本来の地酒であると考えるとした場合、その「地酒度」を分類分けしても良いような気がします。

もちろん、日本酒の現在の生産環境から考えると難しいのかもしれませんが。。。

もう一つは、信州でも各蔵が努力し、生酛造りやもち米の四段仕込みを始め、様々な創意工夫や特色作りをされているのですが、「一麹、二酛、三造り」と言われるように、最も最初の重要な工程である麹(製麴)の工程の特色があまり見えないというのは消費者として非常に残念であると思います。

情報はオープンにし、選択は消費者に。

そして、判断の基準となる情報やモノサシをできるだけ消費者に提供できるようにし、プラスアルファの楽しみ方や経験を売り手、伝え手が提案・提供する。

「地酒」の環境を整備し、「守る」ために、飲み手も、伝え手も、作り手も、ともに高め合い持続可能な豊かさ、資産としての文化を手にする。

そんな理想を側面的に支える施策について、今回の訪問や、長野県との出会いから、より関心を抱かせていただくことになりました。

〔文責:宮田久司〕

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要素複合的結果産業としての「観光」

人口が減少していく日本、特に地方にあって、2007年より施行された観光立国推進基本法から続く、国の観光立国への流れには期待を寄せる関係者も多いと思います。

外国人観光客の入国者数は、2007年にはおおよそ835万人だったのが、昨年2015年には約2201万人と7年間で264%以上の伸びを見せています。

もちろん、人口が減少していく地方では、都市部からの人口流入(移住定住)はハードルが高いにしても、ぜひ来てお金を落として欲しいというのが、一つの期待としてあり、観光促進施策というのが、一つの重要なテーマとして挙がっていることと思います。

私が関わっている地域でも、やはり観光というのを切り口に地域振興を図っていきたいということで、行政や公益的な事業を行う民間団体が頑張っていらっしゃいます。

 

ただ、ここで思うのは、ただ闇雲に観光振興が必要だということで、面白可笑しいポスターや動画を撮って周知させる「プロモーション」や、名物となるキャラクターを生み出し発信するプロモーション施策としての「ゆるキャラ運動」、あるいは一瞬の打ち上げ花火として盛り上げを促す「打ち上げ型イベント」、そして旅行会社にお金を貢ぎ魅力が薄く、ターゲットや打ち出す価値も曖昧な旅行パッケージを造成してもらう「モニターツアー」や、それにメディアも入れた「ファムトリップ」などなど、どうしてもこうした外に「目立ち」、「なんとなく盛り上がったり形が見えたりする」事業に目移りしたり、偏重したりする向きもあるような気がします。

施策を立案し、執行する関係者は、ぜひ観光を進めることの「目的」を整理し、その上で受益者(ステークホルダー)を明確にし、短期の利益と長期の導きたい成果の双方を見据えながら、妥当な目標設定を行い、ソリューションとなる施策や事業を進めていただきたいと思います。

 

観光は、細かな地域性等を踏まえずに言えば、大まかには、先日の「農商工連携・六次産業化」と一緒で、「地域資源をベースにした産業化による振興と地域環境の保全による生活者の暮らしの向上」が一つの目的であり手段であると思います。

地域資源というのは、人というものや事業者というものもあるでしょうし、自然やそれに由来する生活文化、風習、歴史的な文脈、食文化、そしてインフラなどの社会資本も該当すると思います。

それをいかにして産業化させ、飲食店や旅館ホテル、地域食材を提供や販売する商店、土産物店、人を運ぶ旅客運輸、それを体験などに落とし込んで楽しんでもらうレジャー産業の人やガイドさん、あるいはその全体をコーディネートするランドオペレーターさん等など、多くの「担い手」が関わり、地域資源を商品に変え、地域内外の消費者に対し、伝え、「財やサービス」として価値を提供し、消費者が価値経験(文化的経験)を受益することによって「観光」という結果、あるいは「事象」が成立すると思うのです。

そして、一つの「担い手」だけでなく、多くの「担い手」が、一定の土地(フィールド)を背景に価値経験を提供することによって「地域観光」が成立し、その価値提供を継続し、良い印象を与えていくことで地域の「観光的ブランド価値」が形成されてきます。

 

その中で、例えば「プロモーション」は、その土地の認知を高め、印象としての「観光的ブランド価値」をより明確に力強く訴えていくために必要なツールとなります。

一方で非常に重要なのは、やはり地域の産業化を具現化させる地域の「担い手」としての産業主体であり、さらに言えばその産業主体の小さな(あるいは大きな)「ブレークスルー」の集積が、地域の観光的ポテンシャルを顕在化させ、「観光地域づくり」の実態を形成します。

また、その産業化を担う産業主体の背景を支える自然資源や人々の暮らし、文化や環境といったものは、地域を成立させる基盤となるものですが、「卵」(Performance)だけでなく、それら「鶏」本体(Performance Capability)にも還元させていく視点も重要になります。

また、市民交流や(帰省や友達付き合いなど)家族や友人間の交流による移動にも産業化している要素があれば、観光的波及効果がもたらされるという面で、重要なファクターとして位置付けられます。

 

これらの「総体」や個別のアクティビティを捉え、評価し、地域として高め、施策としてその総体的な量や質の人的、金銭的、あるいは情緒的側面の向上に対して、支えていく、ファシリテーションしていくということが政策を立案し、執行する側には求められます。

特に、現代は、大勢がバスに乗って押しかけ、どこか観光施設を見て、大規模なドライブインで食事をし、またどこかに行ってしまうというタイプの観光は常に衰退傾向にあります。

外国人観光客も、一時は中国からの観光客をはじめ「ゴールデンルート」を巡り、家電やさんで爆買いさせ、帰っていくというマスツーリズムが脚光を浴びていましたが、今や停滞気味であるばかりでなく、違法ガイドの問題や、サービスの利益率低下、ブランド価値の低下を招き、周辺地域への波及効果も薄いなど課題が挙がっているため、検証や修正が必要となるでしょう。

個別具体的な価値観や関心、需要を持つ「個人」が、それぞれの判断を元に経済行動の一つとしてある地域に出かけ、価値経験を得て、財やサービスを購入し対価を支払う行為について、該当地域は理解する必要があると思うのです。

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今年、ドイツ西部のルクセンブルクに近いTrierという街やBernkastel-Kuesという町に行ってきました。

ルクセンブルクは世界遺産にもなっている美しい街ですが、Trierも同じくローマ時代の遺跡がある美しい街です。

ルクセンブルクに主要目的をおきながらも、Trierの方が宿賃が安く、Trier大学の先生とご一緒するという目的もあり滞在しました。

街中は美味しい料理とワイン(近年大きく質も向上してきたモーゼルワイン)を楽しみながら、ドイツらしい町並みとDOM(大聖堂)をはじめとした中世から続く現役の遺跡も見たり、現地の人や旅人と話したり飲んだり、とても楽しい経験でした。

ある日は、Trier大学の先生の運転でワインツーリズムが盛んな近くの町Bernkastel-Kuesに行き、醸造家との話を聞きながらテイスティングを楽しんだり、美しいぶどう栽培地を見たりとこちらも掛け替えのない経験でした。

そして、TrierもBernkastel-Kuesも小規模な地方都市や農村であるにもかかわらず、これらの個人客に支えられて(Trierは遺跡があるためツアー客もいましたが)、随分と賑わっていました。

当然ながらワインを買う、レストランで食事をする、宿泊施設で宿泊するという行為が伴います。

またレストランで食事をする際には当然、地域の芋や豚肉などが出てきます。そして、それらの農産物が地域の土地や人々の暮らしや文化を守るベースにもなり、外部の消費がそれに役立っています。

若い醸造家の意欲的な取り組みに対する出会いもあります。

外部から見ると、その土地の地域資源や産業化し観光地域づくりを成立させている要件も見えてきますし、また核となる資源やアイデンティティも見えてきます。

そこにいる担い手は、最初の出発点は必ずしも観光ではないかもしれません。

農業、製造業、サービス産業、住民、それぞれの「担い手」や生活者が、それぞれの中で、主体が価値を高める取り組み、あるいは顧客に喜んでもらい自らの生活を向上させる取り組みを重ねることにより、総体として「観光的ブランド価値」の形成に寄与しているのです。

「観光地域づくり」には、観光的発信に囚われるのではなく、中小の「担い手」の小さな(あるいは大きな)「ブレークスルー」を促す小さな一歩と広いバックアップが望まれているのではないでしょうか?

あるいはそれこそが観光的波及効果の最大化に近づく重要な要素であり、それにより「観光を推進すること」が産業的、あるいは文化的、社会的意義を持つということにもつながるのだと思います。

 

ごく最近は、こう言った観光の側面を認識し、多様な要素を見ながら地域の社会的環境、ソフト面のインフラを整えていこうという動きも見られるようになってきました。

これらの認識の変化や取り組みの変化から、より良い地域社会が形成され、人々の暮らしの向上や生活文化の振興や保全につながり、より良い日本や世界の運営につながっていくことを願うばかりです。

もちろん、我々もそのための貢献余地があれば、献身を惜しみません。

〔文責:宮田久司〕

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「残念な」麹屋さん

郷土の食材に携わる身として、様々な生産者との出会いから、本当に様々なことを考えさせられます。

そして、そこに正解があるのか、正しい見解があるのかというと、胸を張って「YES」とは言い切れないことばかりです。

 

今回、名水を武器に地場産業や観光振興に取り組んでいる土地で出会った「麹屋」さんとのやりとりもまた、考えさせられるものでした。

表題に「残念な」というタイトルを載せたのは、まず第一に、この麹屋さん、あと3年で麹作りをやめる算段を立てているというのです。

朝早く、夜遅く、地下にある麹室での激しい作業。さらに味噌や甘酒といった麹を使った製品作りもし、直販のための手配もしなければならない。それを老夫婦で賄っているのだから、確かに仕方がない。

黒く塗った麹蓋で作る、粘度(麹菌の繁殖密度)の高い米麹、そして豆麹。
確かに、見ていて感嘆してしまいそうなものです。

様々な食材を熟知する、弊社の催事でお手伝いいただく食のスペシャリスト「Mさん」も、「これはこのまま食べないと勿体無い」というほど未知のクオリティだと評価を下した間違いの無いものです。

そこで出していただいた某地域の郷土食「はまな味噌」も、甘みと辛味、旨みが自然な形で融和したまさにご飯のお供に、なんとも贅沢なものでした。

もちろん、科学的な添加物なしの昔ながらの品々。

本当に残念です。

 

しかしながら、こう言った素晴らしいものを作られている生産者に良くついて回るのも、また一方の「残念な」側面があります。

今回の場合は、長話。

もちろん、話の節々で郷土の食文化や水の話、そして同業者の裏話などなど、すべてがその土地や生産者を知る上で私にとっては貴重な情報です。

しかしながら、その後に自らの過去の栄光の話、孫の話、販売している発明品の話、折紙の話など、計3時間にも及ぶ話の中で半分が、お客様である私たちにとって「どうでもいい」話なのです。

自らの話したいこと、自らのアピールを思うがままにお客さんに発表する。

この姿勢は「お客様視点」、「マーケットイン」の視点を踏まえていないからに他なりません。

 

もし、そのような発表や自己顕示のために時間を使うのであれば、クオリティを保ちどう効率化や商売の可能性を追求しないのか?

もう少しお客様視点からものを見て、気持ち良く買い物をしてもらい、自社も潤う方法を探求しないのか?

と、どうしても思ってしまうのです。

 

結果として、いいものを作っているのは分かるけれど、「大変で儲からない商売」ということで、後継が育たず、長い歴史に幕を降ろすという結果に至ってしまう。

案の定、ここもご子息は別で職を得ており、跡を継ぐということはないようでした。

 

こう言った状況に直面している、特に伝統的な郷土食の担い手(酒造、醸造業、食品加工業、農林水産業など)も数多くいると実感しますが、もちろん、ご子息が跡を継がないことの方が幸せなのかもしれないとか、効率化を追求し、クオリティや、その商店ならではの「味」も無くなってしまったら残念だとか、そもそも担い手の自己の発表や自己顕示、すなわち自己満足自体も決して無下にできないものなのではないかとか、様々な思いはあります。

そんな現状に直面しながら、どうアイデアや流通上の支援、あるいは資本的なバックアップ、あるいは社会環境の整備によるバックアップにより「担い手のブレークスルー」を支え、郷土文化資産であり、多様で安全な食文化が守られることによって実現する生活者の豊かさを担保するために、振興や保全を支えていくか。

弊社は学習とトライ&エラーを重ね、そんなことのために「暗躍」していきたいと思います。

答えのない問いかけにこそ、未来を想像する可能性が潜んでいるのかもしれません。

〔文責:宮田久司〕

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六次産業化・農商工連携フォーラム

12月14日に中部経済産業局、東海農政局が主催する「六次産業化・農商工連携フォーラム」に参加してきました。

すでにフェイスブックで感想を少し述べているので、下欄に転載いたしますが、加えて、今回は国の機構でいうと経済産業省と農林水産省の管轄ということなのですが、地域レベル、現場・実践レベルでは「六次産業化・農商工連携」は、あくまで一つの切り口であり、取り組み上の目的としては、ここで触れられていない他の分野とも共通しており、特に近年は、様々な分野が歩み寄り、また多様な要素を統合させながら、社会環境や振興のための機能を作っていくということが求めらるのではないかと感じました。

私たちの国際日本酒普及連盟では、これらの社会環境整備や振興のための機能作りに関する知恵や実践のプラットフォームとして、大学と共同で「場」(「プラットフォーム」、あるいは社会的な場「Social Field」)づくりを行う計画を進めていますが、その中で国の機構でいうと、当然国税局(財務省)がお酒で絡んできますが、国際貿易振興や産業振興、コンテンツ産業の発信等の側面では経済産業省やジェトロが、お酒や食文化を通じた観光や地域づくりについては国土交通省が、食文化の振興を通じた農業の振興や保全という点では農林水産省が管轄となります。

全ては「地域資源をベースにした産業化による振興と地域環境の保全による生活者の暮らしの向上」が共通のテーマ、ないし目的であると思うのですが、どこを切り口や取り組みの対象とするかによって変わってくるのです。

しかしながら、この不可分のテーマや専門性、さらには立場(産官学民、あるいは金融等)が広いフィールドを視野に入れて共通理解を進めながら地域をよりよくしていくために必要な協力を行っていくという、今まであまり機構化や社会的に明確に位置付けられてこなかった流れや機能というものが、社会的に求められている。時代の要請が高まっているのだと思います。

地域の産業支援施策の中では、農業がテーマであったり、観光が切り口であったりと、起業支援がテーマであったり様々な細部の違いはありますが、近年は上述した流れから、多機能で包括的に連携し、地域産業の側面的なバックアップを図っていく体制もちらほらと顕在化しているように思います。

そのような流れの中で、いかにして長期的な成果と短期的な成果をバランスをとり、成果の見える化や目標設定の最適化、叡智や実践の結集をし、「真の意味ある取り組み」として継続していくか、成果をあげるかがそれぞれの場面で求められています。

そんな中で、ISF(国際日本酒普及連盟)や弊社(久悦)も「間違いなくお役に立てる」、あるいは「意義ある取り組みをすでに構築している状態」の、存在として「地域資源をベースにした産業化による振興と地域環境の保全による生活者の暮らしの向上」に貢献していくことができればと考えております。

以下は、一応、フェイスブックに共有させていただいたコメントも掲載します。

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● 意欲的にマーケットインを意識して色々取り組む生産者もいるが、プロダクト主義でまともな商取引きや柔軟な発信が出来ないことや、中には自分が目立ちたくてお客さんの気持ちを鑑みず「この方商品じゃなくて自分を売ってるね」と皮肉を言われる始末の人もいる。そして良いものを作っていても、このようなバランス欠如から次世代への継承がより困難になる。市場や制度の問題を挙げる人もいるが、生産者のバランス感覚、オープンマインド、マーケットインの感覚、マネジメントの欠如も現代の一次産業の現状を招いているのではないか。そのような現実に良く直面するので、岐阜大学の前澤先生のマーケットインの講話は色々と頷けるものだった。一つ思ったのは、マーケットインやOnetoOneという概念もあるが、これを進めて「ソーシャルイン」つまり市場が求めているニーズと重ねて社会的に求められるニーズやシーズを踏まえ消費者ニーズとバランスをとり影響を与え合うことの概念化も必要かと思った。

● JA愛知連合会のプレゼンテーションや浜松市商工会議所のプレゼンテーションもあり、非常に興味深く聞かせていただいた。JAの機構や事業への批判や商工会議所が仕事してるのか?といった批判も聞くが、熱心に意義ある取り組みのエッセンスを見させていただいた。批判対象だけにフォーカスするのではなく、学べることに目と心を開き自らの現状を省みることの重要性に気づかされた。

● 余談として、岐阜県の作成する特産品カタログが無駄に良い紙を使っているが中身がなく残念だった。先のマーケットインの話ではないが何のための冊子か不明。隣の長野県を大いに見習っていただきたい。

色々勉強になる会でした。

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〔文責:宮田久司〕

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4月30日シンポジウムについて

2016年4月30日にISF(国際日本酒普及連盟)が主催となり、日本酒や食文化の国際発信に関するシンポジウムを開催いたしました。

当日は本内容に関心を持つ様々な100名以上の来場者が訪れ、食文化の再発見と発信に関する知見や実践の共有を行いました。

報告書についてはこちらを。また、背景となる論文についてもこちらでこ確認することができます。