シンクタンクとお酒・食文化

近年、個人的には良い傾向だと思いますが、産官学連携や金融機関を含めた連携など、多様な分野で既存の垣根を越え、社会的価値の創出を目指す動きが多く見られるようになりました。

社会の展開がスピーディーになり、国際的な動きとの関連性が多くなったり、また、人口増加と経済成長が進み国際的なプレゼンスが高まっていたある時と比較すると、何かと忙(せわ)しく、危機感を持たざるを得ない環境だからこそ、こう言った動きが「トレンド」になっているのかもしれません。

こう言った動きが、流行の枠を超え、単に短期的なイベントとして存在する以上に、長期において、社会的価値の創出や、それを支える枠組みとして機能するに足るものとして捉え、物事が進められていくことを願うばかりです。

 

私はかつて行政で仕事をしていましたが、行政の仕事に関する情報、ノウハウ、戦略等の継承性については多くの課題があると考えています。

物事をより本質的に捉え、関連する周辺環境を把握し、ネットワークを獲得し、それらを含めたソリューションとしての政策を理解し、打ち出し、執行していくには、2年、3年での異動が一般的な職員では厳しい側面があります。

また、それゆえに、あるいは人材的な側面や組織文化からノウハウの蓄積や構築が難しく、議論の基が十分に存在していないということも課題でしょう。

 

一方、産業界はというと、生存競争に晒されている中で、その多くは自社の生き残り、売上や利益の向上、製品のクオリティの向上など社会的にはその機能の一端を担う「部分最適」の領域で常に情報やノウハウを獲得し、結果として社会の歯車となり、社会貢献するという形になる社会の「担い手」という側面が強いと思います。

 

個人的には産学官の中で、最も専門的見地による情報・知識の集積があり、かつ専門的な研究職や内容があまり動かないという観点から継承性・継続性があるのは大学であるように思います。

とはいえ、大学における研究領域も細分化されており、綜合的に物事を関連づけ、社会的需要と連結させて、その関わりの中でタイムスケジュールも含めて社会的価値に落とし込んでいくだけのノウハウを持っているかというと、そのような事例は稀であると思います。

 

しかしながら、今後に、このような社会的需要に基づく価値の創出に対し、人(ネットワーク)・物・金・情報(専門知識)などを関連づけ、継承性ある戦略、機能の創造、アウトプットを行うコーディネーターの存在は、より重要性を増すように感じます。

国際舞台における日本の外交については、外務省が『日本における外交・安全保障関係シンクタンクのあり方について〜外交力を強化する「日本型シンクタンク」の構築〜(外交・安全保障関係シンクタンクのあり方に関する有識者懇談会 報告書)』[平成24年8月] に記載しているように、外交的手腕において良し悪しは別として謀略的に機能されている英国や米国においては、英国王立国際問題研究所(チャタムハウス)や、米国の外交問題評議会(CFR)などがその人材や情報・思想、あるいは政策立案や執行に際して強い影響力を持っていることは良く知られている一方で、日本において政策立案機関、立法機関、行政機関などの外部に、知的継承性や実効性を持つ機関が存在していないということが指摘されています。

外交については、非常にナーバスなこともあるので、ここでこのシンクタンク機能や勢力の存在についての是非は言及しませんが、社会的検討課題(Public Matter)に関して、しかるべき理解と情報を束ね、専門的理解やネットワークの継承性を持ち、多様な機関と協業してその解決、あるいは価値創出や機能構築にあたる専門機関、ないしプラットフォームとしての社会的機能が必要となるということは、これからの潮流ではないかと考えています。

 

さて、ここから食文化やお酒についてを見るとどうかというと、海外においてももちろん様々なテーマにおいて多様な分野の方が、その社会的機能の構築について動いています。

例えば、私もお会いしたことのあるジャン=ロベール・ピット氏は、Repas gastronomique des Français(食の遺産と文化のフランス委員会)などを立ち上げ、関連する学術的情報の集積、経験としての情報提供、教育への反映などあらゆる観点からのアプローチを行っていますし、より遡れば、1986年にイタリアのカルロ・ペトリーニ氏によって始められた「スローフード運動」も、マクドナルドの進出に象徴される食文化や環境喪失の危機という社会的検討課題に直面し、その解決やその先にある食文化の振興と保全という社会的価値の創出ということに対し、大学やその他の機関が必要なアプローチを行い、今日は全世界的に展開されています。

 

さて、日本の食文化やお酒ということに話を持っていきますと、人類に与える価値や文化的ユニークさ、それが成立する背景にあった社会的感性やそれによって積み上げられてきた慣習、地理的背景など様々な観点から、他国に劣らず、価値あるものであると思えます。

それは、国外の方々がその魅力を感じ、魅了されていくことからもうかがえます。

2013年12月には、「和食」がユネスコの無形文化遺産に登録されましたが、それも形態や味覚のみならず、『「自然の尊重」という日本人の精神を体現した食に対する「社会的慣習」』として、目に見えない資産的価値を評価されてのことでした。

しかしながら、この食文化やお酒の文化を支え、文化、産業、環境など多様な側面を踏まえ、国内外への普及とともに保全を図るための継承性と包括性のある機能やプラットフォームは存在していないのではないでしょうか?

日本酒に関して言えば、東広島市に醸造研究において蓄積のある種類総合研究所がありますが、今日の社会的な情勢も踏まえた多面的視点から研究に対するアプローチを図り、それを実効性あるものとして展開していく機能を有しているかというと、そうではありません。

ISF(国際日本酒普及連盟)では、これらの現状が抱える状況に対し、国際的なネットワークや叡智の集約、人材や情報の集約と連携から、主に大学等の学術機関と協業し、これらの社会的機能を構築していくことに対し、現在準備を進めております。

日本酒は、米と水のみ(もちろん麹・酵母も)で造られたアルコール飲料ですが、その液体を通してみる世界の内外に、多様な側面が関連性を持ってくっついてきます。

さらに余談を言えば、関わる人の「欲望」までもがくっついているのですが、それはさて置き、その多様な関連性に関する情報や実践の集約、人との結びつきこそが、その魅力の多様な引き出しと広がりを提供する素地を作り、多様な側面からの価値を確立させ、その存在意義を強固にしていく(すなわち人にとって、とても欠かせないものになる)のだと思います。

ISFのカバーする領域と取り組みは、そのような考えから、国際的な日本酒普及を通じた振興と文化的多様性の保全という観点において、国際的に重要なスタンダードの役割を果たすものと確信し、前進しています。

皆様のご理解と、応援、引き続きのご指導をお願い申し上げます。

〔文責:宮田久司〕

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「地酒」と「原産地呼称管理制度」

昨日から長野県内に滞在し、様々な蔵元や郷土食を巡っています。

3月18日から名城大学ナゴヤドーム前キャンパスで隔月開催する予定のフォーラム『美食とお酒の広場』の第一回が、長野県の「原産地呼称管理制度」の話が主で、また第二部では信州の食とお酒の組み合わせを楽しむ会を開催する予定のため、事前の調査を兼ねた巡回です。

もちろん明日は休暇を兼ね、趣味のクロスカントリースキーをするのですが!!

ということで、今回は蔵元だけで東西南北、計8蔵を回りました。

有名どころだと、協会7号酵母の元である諏訪の宮坂醸造株式会社。「真澄」の銘柄で知られています。

一方で、完全に家族経営だけでやっている小規模な蔵元もあります。

それぞれが魅力的な蔵であるばかりでなく、豊かで美しい水源の存在が信州の魅力でもあります。

 

以下に添付してあるものが、長野県原産地呼称管理制度の審査基準です。

長野県原産地呼称管理制度 長野県原産地呼称管理制度2

【※長野県『原産地呼称管理制度』資料より転用】

 

欧州のAOC(Appellation d’Origine Contrôlée)を倣ったこの制度は、日本では先進的に平成14年よりスタートし、すでに10年以上が経過していますが、消費者としてみた場合、このような取り組みの存在は、少なからず商品選択の基準や安心感につながるのだと思います。

例えば・・・

● 自家醸造酒であり、液化仕込みではなく、精米から瓶詰めまで一貫して県内で行なわれているということから桶買いして転売せず、しっかりと清酒の製造工程を踏まえて造られている

● 採水地がわかる(水脈や性質などの特色をつかむことができる)

● 原料米の品種や精米歩合などが明記されていることの安心感がある

 

などがあると思いますが、業界や地域としても・・・

● 顧客にとっての安心感が購買につながる

● 産地を反映させた「地酒」(Terroir Sake)としての価値とその定義を広め、価格を保つことができる

● 県内の酒造好適米の生産保護とクオリティの向上につながると同時に県交配の酒造好適米の認知につながる

● 水源の明記が各所の名水のPRと理解の向上による(環境)保全等にもつながり得る

 

 

と言ったメリットがあり、熱心に「地酒」の醸造に取り組む蔵元にとって、また、長野のお酒を飲みたいと思う消費者(旅行者も含む)にとって、また「地酒」の文化や環境(制度環境や経済環境も含む)の保全という側面においても意義のある、「三方よし」の制度ではあると思うのです。

 

しかしながら・・・

● 全体の製品の中で適応されているものはごく一部であり

● 消費者にも十分に認知されているとは言い難く

● その制度的メリットを十分に生かしきれていない

 

という現状も一方であると思われますし、蔵元としてもそのメリットをより実感したいということもあるように感じました。

 

私が昨年1月にお邪魔したルクセンブルク政府のワイン=ワイナリー機関(IVV:Institut Viti-Vinicole)でもEUのワイン法や現代の消費者趣向を踏まえ、1935年から取り組まれてきた「Marque Nationale」から新たに「AOP – Luxembourgeois」が2014年よりスタートしていますが、市場に出回っているルクセンブルク産のワインには、必ずAOPのラベルが裏面に貼ってあります。

生産者への浸透度という面において、まさにde jure スタンダードとして定着しているということが伺えます。

もちろん、1935年から導入していた「Marque Nationale」の下地があり、かつシーリングされた「地ワイン(Terroir Wine)」でなければ生存できないという環境があるということもあると思います。

 

この「AOP – Luxembourgeois」ですが、導入の目的は「Marque Nationale」を継承し、

① 生産地と品質を担保し、本物としての消費者理解を促す

② 価値と価格を保ち、生産者が良い製品を生み出す意欲を高める

という二つの目的があるのですが、きっとこれは長野県の原産地呼称管理制度も共通しているものでしょう。

これから、消費者も徐々に「本物の」地酒を求める市場環境に変遷されると、個人的には予測している中で、その本物を生産者側、消費者側の両側面から担保する本施策のこれからの発展を願うばかりです。

 

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日本における米を原材料とした醸造酒は、少なくとも1900年以上前には存在したようですが、その土地の恵みである米をその土地の水と酵母で醸す、まさに大地の恵み(Terroir:テロワール)を代弁するものであり、その恩恵を神に感謝し分かち合う重要な触媒でもありました。

現代においても、この歴史的文脈もさることながら、その土地の水、米、酵母、そしてもちろん人により醸された自然の恵みとしての日本酒は、食との組み合わせなども含め、土地の固有性、固有の価値を生み、様々な固有の価値を楽しむことができる文化的多様性が存在することが、生活者・消費者としての「豊かさ」を構成する重要な要素になると思います。

だからこそ、AOC/AOPのような原産地の呼称だけでなく、原産地の資産を守り、消費環境や社会環境を整備するということが重要になります。

私たちは、欧州のみならず、国内の先進地である信州も見て、学ぶことが必要です。

歴史

 

最後に、課題を挙げておきます。

例えば、今回訪問した木曽の酒蔵「中善酒造店」や松本の「大信州酒造」などは、近隣地域で栽培する自家栽培米や、蔵の周りの水田で生産する契約栽培米を利用する、土地の固有度も高い「地酒」でしたが、例えば「真澄」など他の蔵は、あくまで長野県産「美山錦」や「ひとごここち」など、範囲としてもより広く取り扱っているということが窺えます。

AOP – Luxembourgeois では、地域の限定度合いやブドウのヘクタールあたりの栽培量により「LIEU-DIT」、「COTEAUX DE」、「CÔTES DE」という3パターンの表記がされていますが、やはりより限られた範囲で、顔が見える関係から原材料米を調達し、その土地の農村文化を保全していく(これは、自然保護や文化の継承といった観点も含めた農村経済への寄与による社会的共通資本の保全につながる)ことが、本来の地酒であると考えるとした場合、その「地酒度」を分類分けしても良いような気がします。

もちろん、日本酒の現在の生産環境から考えると難しいのかもしれませんが。。。

もう一つは、信州でも各蔵が努力し、生酛造りやもち米の四段仕込みを始め、様々な創意工夫や特色作りをされているのですが、「一麹、二酛、三造り」と言われるように、最も最初の重要な工程である麹(製麴)の工程の特色があまり見えないというのは消費者として非常に残念であると思います。

情報はオープンにし、選択は消費者に。

そして、判断の基準となる情報やモノサシをできるだけ消費者に提供できるようにし、プラスアルファの楽しみ方や経験を売り手、伝え手が提案・提供する。

「地酒」の環境を整備し、「守る」ために、飲み手も、伝え手も、作り手も、ともに高め合い持続可能な豊かさ、資産としての文化を手にする。

そんな理想を側面的に支える施策について、今回の訪問や、長野県との出会いから、より関心を抱かせていただくことになりました。

〔文責:宮田久司〕

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