地方創生にこそ「量」ではなく「質」を

今回は、最近少しずつ思っている「ソーシャル・イン」の考え方を含めて、地方こそ「量」ではなく「質」を考えるべきとの持論を述べたいと思います。

 

最近の地方の施策として良く上がる共通のテーマとして「企業誘致」「観光誘客」「移住定住促進」の三つは、本当にどこに行っても聞かれます。

少し古い話でいうと地域間競争という言葉もありましたが、観光誘客の外国人観光客以外は、基本的には人口減少の過程で減っていくパイに対して、奪い合うという構造が生まれてくることが必至です。

 

しかし、よくよく考えると短期的に企業誘致に成功したとしても、移住定住の誘致に成功したとしても、これはあくまで部分最適の話で、移転した元の地域や移住定住の元の地域にとっては痛手であるということが言えるのではないかと思います。

この点だけ見ると、あくまで先のテーマとその積極的な推進が導くものは「部分最適」としての結果ということになるのではないか?
ということが、疑問点として残ります。

そこに、生活者にとっての短期的なベネフィットと合わせ、人類にとっての長期的なメリットという視点も含めて考慮していくことが必要になると思います。

 

私の取り組んでいる「食」や「お酒」に関しても関連してきますが、例えば「美食」を考えた場合、当然のことながらその食べるシーンや調理の技術ということが必要なのはさることながら、その背後で成立要件となる「食材」の多様性や安全性というものは必至となります。

その食材の多様性を支えるのが、気候や土壌、そして生産者のクラフツマンシップに根ざした「郷土性の保全」ということになります。

そして、その郷土性の中には生業の中に培われてきた自然の保全に対する産業や文化面からの慣習や、その土地ならではの食文化によって培われた食材や調理方法なども存在します。

また、娯楽や宗教的慣習や感性、思想なども存在しているでしょう。

そのような「文化的多様性」が保たれていることが、結果として人々の生活における「文化的豊かさ」を構成し、人々にとっての「価値」へと反映されていくのだと考えます。

 

ここで考えるのは、そのような人々の「文化的豊かさ」へと結びつけるための要素についてしっかりと吟味し、現存している資源をしっかりと認識し、現代的な価値へと見える化させ、それを現代の貨幣経済の循環システムの中に反映させて価値付けし、産業化させることも一つの選択肢として考慮し、「郷土性の保全」へと結びつけていくという考えが必要なのではないかと思うのです。

そして、地方においてはそれを支えるための視点や施策のほか、価値付けを促すツール、人々の感性への啓発などを行い、人々の持続可能な豊かさの実現に対し、意義ある提案と実践をしていくということが大切であると考えます。

 

それは、単に人や企業を呼び込むという単純な数を追う「量」(に対するパイの奪いあい)の理論ではなく、人類の豊かさに資するシステムを提案し、それを具現化させることで個々人の幸福にアプローチしていく「質」(の共同創造)の理論になってくるのではないかと思います。

そして、「質」を追った結果としてまず住んでいる住民が心身とも豊かさを実感することにつながり、場合によっては数値としても人や企業が移ってくるということもあるとは思います。

しかしながら、やはり重要なのは数(すなわち「量」)が減っても「質」は向上し保たれるというモデルをどう共同創造していくか、ということなのかなと思います。

 

地域間競争を促し、勝ち組と負け組みを分けるのではなく、どう人口減少や過疎化が進む中で住民の豊かさを高め、質の高い暮らしを現代の経済的環境の中で(あるいはそこから先を創造し)実現していくかの方が問われているのだと強く感じます。

そして、その価値評価(evaluation / valuation)の方法論についても重要になってきます。

ということは、その価値評価を支える基礎的な考え方を一層整理し、明確にし、世に問うていくことも重要になります。

 

「地方創生」には、そのような観点からしっかり肝に銘じ、知恵を絞り、ともに創造していくことが重要であると私は考えます。

そして、私自身もその応えを見出すべく、探求と実践を重ねていく次第です。

 

【文責:宮田久司】

フォーラム「美食とお酒の広場」のご案内

国際日本酒普及連盟(ISF)は、東海4県21世紀國酒研究会、名城大学農学部応用微生物学研究室、名城大学日本酒研究会と共催で「国際的な日本酒の普及、日本酒文化や関係する社会環境の整備・保全」に関する知識と実践の共有と探求を目的とした「場」として、フォーラム「美食とお酒の広場」の隔月開催を計画しております。

今回、第一回として、3月18日(土)午後4時30分より、名城大学ナゴヤドーム前キャンパスにて、前回愛知県常滑市の澤田酒造株式会社を会場に行われたシンポジウム『中部からクールジャパン発信;知多半島を例に中部エリアの食文化発信のあり方を考える』の内容を踏まえ、地域固有の食文化保全やクオリティを担保する社会環境整備のあり方と振興施策について、長野県ものづくり振興課日本酒・ワイン振興室の協力を頂き、長野県で2003年以降取り組みが継続されている『原産地呼称管理制度』の話を中心に、長野県の「美食とお酒」に関する振興戦略と実践について、長野県名古屋事務所の坂下広氏にご講話いただく予定です。

また、前回のシンポジウムで参加できなかった名城大学農学部教授の加藤雅士氏より、本企画の趣旨及び、海外視察等を含めた内容報告等についても、前段で発表があり、郷土性を打ち出した「地酒」文化の保全や価値の確立に向けた取り組みへの理解と関心を深め、また中部圏での連携や切磋琢磨につながることが期待されます。

第二部では、国際唎酒師として活躍するbien-美宴の吉田綾子氏のナビゲーションにより、会場の名城大学ナゴヤドーム前キャンパスに併設するレストラン「MU GARDEN TERRACE」にて、信州の特色ある食材を用いた食事のほか、主に「原産地呼称管理制度」の認定を受けた長野県の地酒を楽しむ企画・交流会を予定しております。

ぜひこれを機に、長野県の食文化の魅力と、その振興と保全に関する行政としての取り組みへの理解を深めていただくと同時に、関心ある皆様の中部圏における文化振興への理解協力を進め、地域的魅力を高めていくことができればと期待しております。

皆様のご参加をお待ちしております。

※イベントページはこちら👇
http://kyuetsu.com/sakeforum_01/

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<日時>
2017年3月18日(土)【第一部】16:30〜18:00・【第二部】18:30〜20:00

<会場>
名城大学ナゴヤドーム前キャンパス【第一部】N館 DN302講義室・【第二部】MU GARDEN TERRACE

<講師・ナビゲーター>
【第一部】加藤雅士 氏(名城大学農学部応用生物化学科 教授)・坂下広 氏(長野県名古屋事務所)
【第二部】吉田綾子 氏(bien-美宴 代表)

<参加費>
【第一部】一般 1,000円、学生 無料・【第二部】一般 5,000円、学生 3,000円(アルコールを飲まれない場合500円引)

<開催主体>
主催/国際日本酒普及連盟
共催/東海4県21世紀國酒研究会、名城大学農学部応用微生物学研究室、名城大学日本酒研究会
後援/中部からクールジャパン発信委員会
協力/長野県、MU GARDEN TERRACE、bien-美宴
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■ お申し込みは事前予約をお願いいたします

お申し込みに際しては、このメール(miyatah@kyuetsu.com)に・・・
①お名前
②参加の部(一部・二部・いずれも/二部参加の場合お酒を飲むか否か)
③一般 or 学生
④連絡先(住所、メールアドレス、電話番号)

を記載してご連絡ください。
※申し込み受付締め切り:3月10日(金)までです!

地域産業・観光振興施策と「統合型地域経営」

やっとのこと、藻谷浩介氏と山田桂一郎氏が共著されている新著『観光立国の正体』(新潮新書/2016年11月)を一読することができました。

アマゾンの読者評などでは「批判的すぎて建設的ではない」というようなコメントも見受けられますが、地域の現場に携わり、建設的な取り組みを進めようとする人間からすれば、これだけ批判をしてもし過ぎることはないというくらい、地域の建設的でない人間を客観的に「不易であると位置」づけるという建設的な批判であると受け止めることもできるのではないかなと思います。

近年は、国は観光立国の重要性を謳い、確かに外国人観光客の数も大幅に増え、インバウンド人口の総数など見ても、国の政策目標を上回る訪日観光客が来訪していることがわかります。

 

しかしながら、本書に述べられているように・・

● 果たして事業者の付加価値を高め、長期的に見て魅力ある観光地やサービスづくりがなされているか?
● 観光を振興することが、地域にとっていかなる意味を持ち、関係者の理解と参画意義の元に観光地域が形成されているか?
● そのような観点を含め、観光協会や地方自治体などが適切な施策を打ち出し実行されているか?
● 消費者の時代背景も捉えた潜在的ニーズに対応する形で価値の構築や魅力の発信、来訪までの動線が設計されているか?

など疑問点であり、解決策を見出し、地域として共同で解決していく断続的な取り組みが求められます。

 

私自身も、このような地域の現場にも少なからず携わらせていただく中で、第一に思うのは、「観光や地域振興はあくまで地域にとっての手段」である。ということです。

何のための手段かというと、その土地に住む人や接点を持つ人が短期的にも長期的にもその土地(地域)と接点を持つことで健康的な生活(マズローの欲求レベルの底辺)や文化的豊かさ(比較的高次な欲求)を満たすことにつながり、結果として人々の幸福に資することができるかということでしょう。

以前に「要素複合型結果産業としての観光」の中で述べたように、その地域の人々の生活に還元でき、かつ観光的顧客に当たる顧客に対して価値経験を提供できるよう、「地域資源」をベースにした産業化を図り、価値経験を提供し、売上を上げることで「地域資源」であり、それを構成する最も重要な要素のうちの一つでもある住民の生活や、地域環境の保全へと循環させていく。

公共セクターの財政も補助輪として、この経済的循環を確立させていくことが重要になると考えます。

 

そんな中で、よく地域の振興施策、観光施策として散見されるのが、『観光立国の正体』でも槍玉に挙げられている「イベント」や「キャンペーン」、「PR」、「スタンプラリー」、「モニターツアー」などの単発型の「打ち上げ花火」でしょう。

こういったものは、一つの促進剤として有効であると言えるかもしれませんが、全体の振興戦略の遂行や制度資産、地域の「見えない」資産(ストック)を高める上でしっかりと戦略的、政策的位置付けをして実施をしなければ「何も残らない」ばかりか、「残念さ」が残る結果となってしまいます。

近年、ある県で実施したスタンプラリーでは、応募するとその地域特産の高級和牛が当たるという触れ込みでしたが、応募数が少なく、たまたま県の職員が応募したら当たった!とか・・・

そんな「残念な」「打ち上げ花火」だけは避けたいものですが、本事業は果たして検証されたのか、また同じようなスタンプラリーが行われたらどうしようかといった懸念はぬぐえません。

事業の中に、しっかりと計画し、実施し、検証し、次にステップアップできるマネジメントサイクルを組み込んでいくことが不可欠でしょう。

 

また、今日では一事業者、1セクター、一地域といった既存の枠に囚われていては「求める結果」「ベストの未来」に対して有効かつ効果的なアプローチができないということも言えます。

それは、前例踏襲で物事を進めていけば良いという「古き良き」時代から、未来を見据えしっかり課題解決をしていかなければ先が見えない(創れない)時代へと変化しているからに他なりません。

地域の中小事業者、農林水産の担い手は、確実に減少していますし、減少していきます。

それは、地域密着の最たるものでもある酒造業界でも顕著です。20年前に比べ4分の3の水準に減少していますし、その流れはこれからも進んでいくものと予測されます。

 

そんな、「地域振興」や「観光」と言ったキーワードに触れ、いろいろと物事に関わらせている時に浮かんだ概念が「統合型地域経営」というものです。

もう随分と経ちますが、以前「マーケティングコミュニケーション」の世界では「統合型マーケティングコミュニケーション」というものが一時のトレンドになりました。

それは、Wikipediaを見ると「外部環境と消費者データを踏まえ、ターゲット・オーディエンスに対してブランドを統合的なメッセージでコンタクトさせ、納得してもらうトータル・マーケティング・システムである」と書かれていますが、要は「ブランドを構築するために顧客視点からあらゆるマーケティングコミュニケーションのための手段や手法を一貫性を持って展開していくためのプログラム化された手法」といったところでしょうか。

その細かい手段に「CI」や「CM」、「有料・無料パブリシティ」や「キャンペーン」などが展開され、日本でもこの手法がもてはやされ、「広告マン」や「ストーリー化された広告宣伝手段」が「カッコイイ」とされた時代がありました。

 

それとは違いますが、地域振興や観光というものを捉えた時には、やはり「受益者としての生活者」と「顧客としての消費者」との幸せな結びつきを支え、持続可能な形で地域的価値を高めていくための「統合的アプローチ」の重要性を実感するに至っています。

そして、現段階では、その重要な視点・構成要素は以下の3つのポイントにあると考えています。

 

① 「地域振興・観光推進」施策を切り口に
地域振興や観光推進は、特に外貨を得ることに必要性を感じ、域外の消費者に対し財・サービスの提供をし、対価を得る地域事業者や産業が存在する地域にとって、その外貨獲得の手段として不可欠な視点であり、取り組みであると考えます。
その中で、地域全体で顧客需要から発端となった「地域のイメージ」や「ストーリー」といったエリア・ツーリズム・マーケティングも必要となりますが、それ以上に、地域内事業者が地域的資源を背景に、それを活用した財・サービスの創造と販売が重要となります。そして、その担い手としての事業者が潤い、顧客満足度を高め、その連鎖や集積を高めることが重要になります。
担い手がどれだけ「顧客としての消費者」に対し「価値経験」を提供できたかが、結果として地域における観光的波及効果にもつながりますし、「地域ブランド」の実態を構成する要素につながります。
また、地域振興や観光振興のための施策は、「担い手」の新規の参入も含めた価値創造や既存資源のブラッシュアップによる価値向上を支えることが、そのためのキーファクターとなります。

② 有効な内外の「連携」を構築
また、「顧客としての消費者」に対し、地域としてより高い価値を提供することにつながり、かつ域内の「受益者としての生活者」にとっても最大の便益が得られる形を実現するために、より「効果的」な取り組みとともに「関わり方」も重要になってきます。
その域内の連携が、個別のノウハウや価値向上のための努力とともに、効果を高める潜在的な力を高める重要な要素となります。
現在、産官学民や金融等の有意義な連携や市町村等をまたいだ連携、分野を超えた連携等により、最大かつ効果的な結果に結びつけるための模索が各所で行われていますが、これは非常に有益なことであると考えます。
一方で、どう関係者を位置付け、「総論賛成各論調整」で有益な連携体制を構築していくか、また舵取りを行っていくかについては多様な知見と物事を総合的に繋げていく遂行技能(スチュワードシップ)、合わせて新たな情報や学びに心を開き学習していく「開かれた思考」「開かれた心」「開かれた意思」が重要になります。
そのような観点を含め、「信頼と互恵に基づく社会的関係(すなわち「社会関係資本」)」の創造とそのための技能や手段が求められます。

③ 「地域経営」の枠組みの導入
また、地域としての実践には「やりっぱなし」ということがよくあり、これが「打ち上げ花火」と言われる所以なのですが、企画ものに予算をつけ、まず3年やって終わり。というケースが殆どです。
そして、結果として地域に何が残ったのか、よくわからないまま、今まで起こったことは当事者の頭のの中でも忘れ去られ、また新しい「打ち上げ」プロジェクトが誰かの発案で開始されるのです。
そうではなく、しっかりと「受益者」や「顧客」を定義付け、その事業を行うことが何処の誰に、いかなるメリットを提供し、受益者の具体的にどのような便益、すなわち成果の向上につなげていくのか、あるいは波及効果を目指していくかをしっかりと見越し、その上でその成果指標を整理し、その目標を達成するためにより効果的なアプローチを「計画」していくことが重要です。これが「PLAN」の段階。
そして、それを現場の知恵を綜合しながらより有効な形で実践していく「DO」の段階を経て、しっかり計画と実行の過程で出てきた評価指標(目論見)と実践で挙がってきたデータや発見、知恵、そして良くも悪くもフィードバックやギャップ、顕在化されたニーズなどを元にしっかり検証(「CHECK」)し、次のより有益かつ意義ある施策や取り組みにしっかりと反映させていく「ACTION」が必要となります。
もはや、「地域を経営」するのは行政でもなければ政治家でもないというのが私感です。しっかりと「プログラム(すなわち政策)」を執行管理できる妥当な執行役がそのパートを担い、最大限の効果を上げていくことが重要になると思いますが、それをしっかり判断するためにも「地域経営」の枠組みが「制度資本」(地域のオペレーティングシステムという見えない資産)として必要であると考えられます。
このような「地域経営」という概念を最初に提唱し始めたのは、個人的にも知っている地域経営研究所の海野進さんという方だと思うのですが、そのプロトタイピングを各地域で「振興施策」を担う人には実践していただきたいと思います。

 

『①「地域振興・観光推進」施策を切り口に』『② 有効な内外の「連携」を構築』し、『③「地域経営」の枠組みの導入』を計画し、執行していくことは、結構至難の業でしょう。

決して一人の力、一つのセクター、一つの専門分野でできるものではありません。そこに行政、大学、産業界、観光協会、銀行など多様なセクターが関わり、「地域の課題解決」や「ビジョンの創造と現実化」を共に進めていく意味と意義、必要性があります。

既に「出現している未来」に対し、皆でこの点に向き合っていけると良いと思っています。また、個人的にもこの「統合型地域経営」の細部と実践をより明確に示していければとも考えております。

〔文責:宮田久司〕

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