地域産業・観光振興施策と「統合型地域経営」

やっとのこと、藻谷浩介氏と山田桂一郎氏が共著されている新著『観光立国の正体』(新潮新書/2016年11月)を一読することができました。

アマゾンの読者評などでは「批判的すぎて建設的ではない」というようなコメントも見受けられますが、地域の現場に携わり、建設的な取り組みを進めようとする人間からすれば、これだけ批判をしてもし過ぎることはないというくらい、地域の建設的でない人間を客観的に「不易であると位置」づけるという建設的な批判であると受け止めることもできるのではないかなと思います。

近年は、国は観光立国の重要性を謳い、確かに外国人観光客の数も大幅に増え、インバウンド人口の総数など見ても、国の政策目標を上回る訪日観光客が来訪していることがわかります。

 

しかしながら、本書に述べられているように・・

● 果たして事業者の付加価値を高め、長期的に見て魅力ある観光地やサービスづくりがなされているか?
● 観光を振興することが、地域にとっていかなる意味を持ち、関係者の理解と参画意義の元に観光地域が形成されているか?
● そのような観点を含め、観光協会や地方自治体などが適切な施策を打ち出し実行されているか?
● 消費者の時代背景も捉えた潜在的ニーズに対応する形で価値の構築や魅力の発信、来訪までの動線が設計されているか?

など疑問点であり、解決策を見出し、地域として共同で解決していく断続的な取り組みが求められます。

 

私自身も、このような地域の現場にも少なからず携わらせていただく中で、第一に思うのは、「観光や地域振興はあくまで地域にとっての手段」である。ということです。

何のための手段かというと、その土地に住む人や接点を持つ人が短期的にも長期的にもその土地(地域)と接点を持つことで健康的な生活(マズローの欲求レベルの底辺)や文化的豊かさ(比較的高次な欲求)を満たすことにつながり、結果として人々の幸福に資することができるかということでしょう。

以前に「要素複合型結果産業としての観光」の中で述べたように、その地域の人々の生活に還元でき、かつ観光的顧客に当たる顧客に対して価値経験を提供できるよう、「地域資源」をベースにした産業化を図り、価値経験を提供し、売上を上げることで「地域資源」であり、それを構成する最も重要な要素のうちの一つでもある住民の生活や、地域環境の保全へと循環させていく。

公共セクターの財政も補助輪として、この経済的循環を確立させていくことが重要になると考えます。

 

そんな中で、よく地域の振興施策、観光施策として散見されるのが、『観光立国の正体』でも槍玉に挙げられている「イベント」や「キャンペーン」、「PR」、「スタンプラリー」、「モニターツアー」などの単発型の「打ち上げ花火」でしょう。

こういったものは、一つの促進剤として有効であると言えるかもしれませんが、全体の振興戦略の遂行や制度資産、地域の「見えない」資産(ストック)を高める上でしっかりと戦略的、政策的位置付けをして実施をしなければ「何も残らない」ばかりか、「残念さ」が残る結果となってしまいます。

近年、ある県で実施したスタンプラリーでは、応募するとその地域特産の高級和牛が当たるという触れ込みでしたが、応募数が少なく、たまたま県の職員が応募したら当たった!とか・・・

そんな「残念な」「打ち上げ花火」だけは避けたいものですが、本事業は果たして検証されたのか、また同じようなスタンプラリーが行われたらどうしようかといった懸念はぬぐえません。

事業の中に、しっかりと計画し、実施し、検証し、次にステップアップできるマネジメントサイクルを組み込んでいくことが不可欠でしょう。

 

また、今日では一事業者、1セクター、一地域といった既存の枠に囚われていては「求める結果」「ベストの未来」に対して有効かつ効果的なアプローチができないということも言えます。

それは、前例踏襲で物事を進めていけば良いという「古き良き」時代から、未来を見据えしっかり課題解決をしていかなければ先が見えない(創れない)時代へと変化しているからに他なりません。

地域の中小事業者、農林水産の担い手は、確実に減少していますし、減少していきます。

それは、地域密着の最たるものでもある酒造業界でも顕著です。20年前に比べ4分の3の水準に減少していますし、その流れはこれからも進んでいくものと予測されます。

 

そんな、「地域振興」や「観光」と言ったキーワードに触れ、いろいろと物事に関わらせている時に浮かんだ概念が「統合型地域経営」というものです。

もう随分と経ちますが、以前「マーケティングコミュニケーション」の世界では「統合型マーケティングコミュニケーション」というものが一時のトレンドになりました。

それは、Wikipediaを見ると「外部環境と消費者データを踏まえ、ターゲット・オーディエンスに対してブランドを統合的なメッセージでコンタクトさせ、納得してもらうトータル・マーケティング・システムである」と書かれていますが、要は「ブランドを構築するために顧客視点からあらゆるマーケティングコミュニケーションのための手段や手法を一貫性を持って展開していくためのプログラム化された手法」といったところでしょうか。

その細かい手段に「CI」や「CM」、「有料・無料パブリシティ」や「キャンペーン」などが展開され、日本でもこの手法がもてはやされ、「広告マン」や「ストーリー化された広告宣伝手段」が「カッコイイ」とされた時代がありました。

 

それとは違いますが、地域振興や観光というものを捉えた時には、やはり「受益者としての生活者」と「顧客としての消費者」との幸せな結びつきを支え、持続可能な形で地域的価値を高めていくための「統合的アプローチ」の重要性を実感するに至っています。

そして、現段階では、その重要な視点・構成要素は以下の3つのポイントにあると考えています。

 

① 「地域振興・観光推進」施策を切り口に
地域振興や観光推進は、特に外貨を得ることに必要性を感じ、域外の消費者に対し財・サービスの提供をし、対価を得る地域事業者や産業が存在する地域にとって、その外貨獲得の手段として不可欠な視点であり、取り組みであると考えます。
その中で、地域全体で顧客需要から発端となった「地域のイメージ」や「ストーリー」といったエリア・ツーリズム・マーケティングも必要となりますが、それ以上に、地域内事業者が地域的資源を背景に、それを活用した財・サービスの創造と販売が重要となります。そして、その担い手としての事業者が潤い、顧客満足度を高め、その連鎖や集積を高めることが重要になります。
担い手がどれだけ「顧客としての消費者」に対し「価値経験」を提供できたかが、結果として地域における観光的波及効果にもつながりますし、「地域ブランド」の実態を構成する要素につながります。
また、地域振興や観光振興のための施策は、「担い手」の新規の参入も含めた価値創造や既存資源のブラッシュアップによる価値向上を支えることが、そのためのキーファクターとなります。

② 有効な内外の「連携」を構築
また、「顧客としての消費者」に対し、地域としてより高い価値を提供することにつながり、かつ域内の「受益者としての生活者」にとっても最大の便益が得られる形を実現するために、より「効果的」な取り組みとともに「関わり方」も重要になってきます。
その域内の連携が、個別のノウハウや価値向上のための努力とともに、効果を高める潜在的な力を高める重要な要素となります。
現在、産官学民や金融等の有意義な連携や市町村等をまたいだ連携、分野を超えた連携等により、最大かつ効果的な結果に結びつけるための模索が各所で行われていますが、これは非常に有益なことであると考えます。
一方で、どう関係者を位置付け、「総論賛成各論調整」で有益な連携体制を構築していくか、また舵取りを行っていくかについては多様な知見と物事を総合的に繋げていく遂行技能(スチュワードシップ)、合わせて新たな情報や学びに心を開き学習していく「開かれた思考」「開かれた心」「開かれた意思」が重要になります。
そのような観点を含め、「信頼と互恵に基づく社会的関係(すなわち「社会関係資本」)」の創造とそのための技能や手段が求められます。

③ 「地域経営」の枠組みの導入
また、地域としての実践には「やりっぱなし」ということがよくあり、これが「打ち上げ花火」と言われる所以なのですが、企画ものに予算をつけ、まず3年やって終わり。というケースが殆どです。
そして、結果として地域に何が残ったのか、よくわからないまま、今まで起こったことは当事者の頭のの中でも忘れ去られ、また新しい「打ち上げ」プロジェクトが誰かの発案で開始されるのです。
そうではなく、しっかりと「受益者」や「顧客」を定義付け、その事業を行うことが何処の誰に、いかなるメリットを提供し、受益者の具体的にどのような便益、すなわち成果の向上につなげていくのか、あるいは波及効果を目指していくかをしっかりと見越し、その上でその成果指標を整理し、その目標を達成するためにより効果的なアプローチを「計画」していくことが重要です。これが「PLAN」の段階。
そして、それを現場の知恵を綜合しながらより有効な形で実践していく「DO」の段階を経て、しっかり計画と実行の過程で出てきた評価指標(目論見)と実践で挙がってきたデータや発見、知恵、そして良くも悪くもフィードバックやギャップ、顕在化されたニーズなどを元にしっかり検証(「CHECK」)し、次のより有益かつ意義ある施策や取り組みにしっかりと反映させていく「ACTION」が必要となります。
もはや、「地域を経営」するのは行政でもなければ政治家でもないというのが私感です。しっかりと「プログラム(すなわち政策)」を執行管理できる妥当な執行役がそのパートを担い、最大限の効果を上げていくことが重要になると思いますが、それをしっかり判断するためにも「地域経営」の枠組みが「制度資本」(地域のオペレーティングシステムという見えない資産)として必要であると考えられます。
このような「地域経営」という概念を最初に提唱し始めたのは、個人的にも知っている地域経営研究所の海野進さんという方だと思うのですが、そのプロトタイピングを各地域で「振興施策」を担う人には実践していただきたいと思います。

 

『①「地域振興・観光推進」施策を切り口に』『② 有効な内外の「連携」を構築』し、『③「地域経営」の枠組みの導入』を計画し、執行していくことは、結構至難の業でしょう。

決して一人の力、一つのセクター、一つの専門分野でできるものではありません。そこに行政、大学、産業界、観光協会、銀行など多様なセクターが関わり、「地域の課題解決」や「ビジョンの創造と現実化」を共に進めていく意味と意義、必要性があります。

既に「出現している未来」に対し、皆でこの点に向き合っていけると良いと思っています。また、個人的にもこの「統合型地域経営」の細部と実践をより明確に示していければとも考えております。

〔文責:宮田久司〕

16179057_1206459952740436_7683927179204193422_o